現実 ページ10
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失ってからはじめて気づく大切なもの
「……はぁ」
俺は今日何度目か分からないため息をはいた。
あの日以来、幽は一度も現れない。
あれは夢だったんじゃないか、と考えてみても
俺のジャージのポケットに入ったロッカーの鍵の重みが、
俺に夢じゃないことを告げている。
ロッカーは開けていない。
それが幽との約束だから。
放課後、委員会で遅くなった俺は遅れて部室に向かった。
「っ!それは本当か!?」
「その日は俺が補習で、柳先輩と一緒にお見舞いに行けなかった日じゃないスかー!!」
少し開いていた扉から、話が丸聞こえだった。一体なんの話をしているのか、見当がつかない。
「……精市には、伝えないつもりだ。」
……なんで俺の名前が出てくるんだろう。
俺の嫌いな悪口を言われているみたいだ。
「俺が、何?」
「幸村!」
「……ちゃんと説明して」
再び静まり返る。
何を話していたのか、モヤモヤする。
「……全国大会が終わるまで、待ってくれないか。それが終わったら全部話す」
「え……いいんスか、柳先輩。そんなことしたら幸村部長が……」
ふと思い出したのは幽の言葉。
『じゃあさ、全国大会で優勝してよ。幸村くん』
『まだ開けちゃダメだよ。全国大会で優勝したら、開けてみて。……いや、別に開けなくていいや。開ける時は覚悟をしておいてね』
「なんで、なんで全国大会が終わってからなんだ…!皆も、幽も……。」
「今、全てを話すと全国大会どころではなくなるだろう。すまない、精市。」
やりきれない気持ちを抑えて部活を始めた。
調子が悪かった
***
部活終了後、幽はいなかった。
いつもみたいにお疲れ様、と笑って言ってくれない。
苦しい
辛い
泣きたい
会いたい
俺はポケットの中の鍵を握りしめる。
このロッカーを開けたら世界が変わるのだろうか。
幽がイタズラな笑みを浮かべながら、飛び出してきてくれやしないか。
そんなバカなことを考えつつ、俺はロッカーの鍵穴に鍵を差し込んだ。
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アマリス(プロフ) - はあー・・・。良かった!プロポーズか・・・。別れなくて良かった。疑ってごめんなさい、幸村君!夢主とお幸せに! (2019年10月31日 15時) (レス) id: 9443474794 (このIDを非表示/違反報告)
アマリス(プロフ) - シリアス過ぎる・・・。幸村と夢主が別れるなんて嫌!!ダメ、別れないで!! (2019年10月30日 9時) (レス) id: 9443474794 (このIDを非表示/違反報告)
Le-ca(プロフ) - スッゴく面白いです!ゆっきーと立海推しだから楽しい!それに、文章力とタイトル、語彙力に話の進め方が最高。シリアスありつつ、硬くなったり飽きないから大好きです!これからも頑張って下さい! (2019年9月29日 20時) (レス) id: 0ae78945e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらの | 作成日時:2019年9月23日 16時