episode59 ページ12
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「いらっしゃいませー、フランクフルトいかがですかー」
棒読みの松本の横で、俺は看板をかかげる。
出店は割と大盛況で、こんな呼びかけなくても人は集まってくる。
いや、でも客の目当ては松本かもしれない。
こんなに棒読みでも人の目を引き、続々と人がやってくるのだ。
やっぱすげえな、こいつ。
いるだけで華だ。
「翔くんも声出してよー」
「いやー」
「はあ…」
じろっと見てくる松本をシカトして、ただ看板をかかげる。
俺にはこの役で十分なんだよ。
おまえが声を出すから客が寄ってくるんじゃねえか。
役割を交換した途端に客が減ったりしたらへこむ、まじで。
「翔くんもイケメンなんだからさ」
「うるせえ、嫌味にしか聞こえん」
「え、割と本気なんだけど」
きょとんとでかい目を向けてくる松本。
ああ、これはからかうときじゃなくて本気のときだ。
一番やっかいなときの松本だ。
こういうときは無視に限る。
松本から視線をそらして四方八方に看板をかかげる。
松本も仕方なしにまた呼びかけをして。
たまに女の人たちに声をかけられてはめんどくさそうに対応している。
さすがに直接声をかけられたら女嫌いの松本でも無視はしないらしい。
「あの、何学部なんですか？」
「あー…薬学部です」
「えー！うそー！頭いいんだ！」
おいおい、おまえ薬学部じゃないだろ。
真顔で嘘をつく松本に心の中で突っ込みながら女の子たちを可哀想に思う。
明日、薬学部を覗きに行ったってこの男はいませんよ。
「一緒にどこか見て回りませんか？」
「いえ、結構です」
あまりにもハッキリと断る松本に明らかに難色を示した女性陣。
もういいよ他のとこ行こう、と途端に顔色を変えた。
さっきまであんなにキラキラした目して松本に声かけてたのに…。
こわ、女性こわ。
「はあ…めんどくせえ…」
「かわいい女の子だったのにな…急に態度変えるんだ…」
「女なんてみんなそうだよ」
全てを知っているかのように松本はため息混じりに言った。
ふーん、俺は中高男子校だったから知らないけど。
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作者名：ぽっぷ
| 作成日時：2019年3月1日 20時
