episode90 ページ10
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｢もうすぐ夏休みだ｣
となりで松本がつぶやいた。
今日は文化祭の実行委員の集まりがあるから一人で帰ると伝えたのに。
松本は待ってる、と聞かなかった。
そして本当に待っていた。
きゅん。
好きがプラス１。
｢あ、大野さんはいいの？｣
｢...智くんも学校で居残りがあるみたい｣
智くんは中学校から不真面目で補習に引っかかってばかりだったけど。
今もそうみたいだ。
勉強嫌いなのに、よくあの学校でついていけるな...。
夏休みも補習があるけど行かない、とか言ってたっけ。
｢夏休み...｣
1番嫌いな季節だ。
去年は何をしていたかな。
蘇る中学校3年生の時の記憶に怯えながら過ごしてたっけ。
あの日以来、夏休みも夏も暑さも闇も何もかもが嫌いになった。
今年の夏休みも、苦しい1ヶ月になるのだろうか。
｢櫻井｣
｢っ、なに...｣
嫌な記憶を引き起こしていたら、松本に腕を掴まれた。
ビクッと、肩が震える。
｢夏休みもたくさん遊ぼう｣
何を言われるのかと思ったら、そんなこと。
そんな、嬉しいこと。
｢......うん...｣
今年の夏休みは、ひとりで不安になることもないのかな。
松本が一緒にいてくれるのかな。
みんなと会えるのかな。
(嬉しい...)
いつの間にかこれが日常になっていて、忘れそうだった。
いや、完全に忘れていた。
過去の痛みを。
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作者名：ぽっぷ
| 作成日時：2017年2月17日 18時
