笑わない華 ＊ 8 ページ10
＊
どさっ
｢お、お前……茜、か？｣
｢……え？｣
鞄のようなものが落ちる音と、そんな声が聞こえた。
後ろを振り返ると、先程まで試合をしていた灰崎凌兵がいた。
｢茜、元に戻ったんだな……｣
灰崎凌兵はゆっくりと私に近づいてきて、私の肩に手を置いた。
そして、驚いた顔をした。
｢お前、誰だ？｣
｢灰崎……くん、だよね。｣
｢……お前、あいつに似てるな。｣
あいつ……って言うのは、多分茜のこと。
灰崎凌兵……もとい、灰崎くんが茜と知り合いだってことも知ってる。
私が微動だにせず灰崎くんを見上げていたからか、灰崎くんはがしっと私の髪を掴んだ。
｢何そんな顔して突っ立ってんだよ。
お前、茜の知り合いだろ？
ふっ……馴れ合うつもりはなかったが、お前となら仲良く出来そうだ。｣
灰崎くんと仲良くするつもりなんてありませんけど。
ニヤリと笑ってから私の髪から手を離す灰崎くん。
私はその反動でフラ、と数歩後ずさる。
……っていうか、初めて話すはずなのに何でこんなに馴れ馴れしいんだろう。
初対面の人に髪を掴まれて仲良く出来そうだなんて言われたら誰だって怖いと思うけど。
ー
｢……お前も、サッカーやってんだろ？｣
｢やってない！｣
灰崎くんの問いかけに、思わず大きな声で反論してしまった。
あの後、よく分からないけどテンションの高い灰崎くんに連れられて病院の中庭に来ていた。
｢即答かよ……｣
呆れたような表情でボソリと呟く灰崎くん。
そりゃあそうだ、ボソボソと喋ってた人が急に大声を出したら、誰だって驚く。
｢……私は、マネージャーだから。｣
｢ふぅん……まあ、どうでもいいんだけどな。｣
どうでもいいなら聞かないでよ。
っていうか、私は灰崎くんのことを調べたこともあるし、知ってるつもりではいたけど……改めて聞かされるのは、複雑な気分。
｢俺は……茜を壊したアレスを潰すためにサッカーやってんだよ。｣
｢アレス……？｣
｢お前、知らないのか？｣
こくりと頷くと、灰崎くんは呆れながらに説明してくれた。
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