ズットソバニイル Yuta (ページ3)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:9,437 hit

3.来客ページ3

面会を終えた2人が戻り、両親であることが伝えられた。ひとりっ子で、大学入学とともに上京し、一人暮らししていたらしい。今は2年生で、経済専攻。

誰かの人生を、今から私に当てはめるような違和感。

知らない人と密室で過ごしている感覚だったから、病院の面会終了時刻になり両親が「ごめんね、もう帰るね」と言った時はホッとした。

夕飯を食べ、消灯時刻になり部屋が真っ暗になる。

それでも、１週間眠り続けていたから眠たくない。何もすることがなくぼうっとしていると、扉が開いた。

初めて見る顔の若い男が入ってきた。整った顔立ちだった。少し驚いた顔を見せながらベッドのそばに来ると、彼はかがみ目線を合わせてくれた。

「ずっと目覚めないから、心配してた。

目覚めてくれて本当に良かった」

その表情でわかった。
この人は、約1週間もの間、私を心配してくれていたんだ。

「調子はどう？」と親しげに聞くその様子から、
胸が締め付けられる。多分この人は、私と親密な関係にあった人。

「体調悪い？大丈夫？」と聞く彼の声が優しくて、泣きそうになる。

『……ごめんなさい。ごめんなさい。

私、記憶喪失になったみたいなの。

あなたのこと、覚えてないの』

彼の表情を見る事が怖い。目を合わせる事も出来ず、下を向いていると、優しく手のひらが頭の上に乗る。

「大丈夫だよ。Aは何も悪くないんだよ。

一緒に思い出していこう。

1人にしないから。俺がいるから」

そして、ベッドに座る私を優しく抱きしめた。

「大丈夫だよ、俺がいるからね。そばにいるからね」

優しく背中をトントンしてもらい、体温を感じる。

あなたは、私に絶望しないの？

何もかもを忘れた私に、悲しまないの？

突然差し出された優しさに困惑する。

まるで、ずっと求めていたものが目の前にえるような感覚。

『あなたは……私と、どういう関係なの？』

なぜか泣きたくなった。

独特な雰囲気。

なんの躊躇いもなく抱きしめてくれる優しさ。

私が記憶を失ったという現実に失望することのない強さ。

悲しむことも、驚くこともなく、こんな風になってしまった私を受け止めてくれる寛大さ。

私は少し期待してしまった。この人と、そういう関係だったら。

「彼氏だよ」