1.失われた記憶 ページ1
目を開けると、白い天井が目に入った。
薬品の匂いが鼻を掠めた。
今にも泣きそうな声が聞こえた。
見ると、50歳前後の男女がオロオロし驚きながら私を見た。
女の方がすぐに部屋から出たかと思うと、
医師らしき人を連れてきた。
女は、「A!」と言って今にも泣き出しそうだった。
「やっと起きましたね」と医師が言った。
何のことかわからずに、ただ3人を見つめた。
「大丈夫?痛いところはない?苦しくない?」と親しげに女が聞く。
そういえば、体の節々が痛むような気がした。
「A、1週間ずっと寝てたのよ。良かった。起きてくれて」
目を潤ませていう女に、私は言った。
『そうなんですね』
その言葉が、一瞬にして場を凍りつかせた。何か、いけないことでも言ってしまったのだろうか。
「A?」
驚きと悲しみの表情をした女が「信じられない」とでも言いたげに私の手を勝手にとり、何かを訴えるように聞く。
Aという誰かの名前をずっと呼んでいる。
人は、自分が許可する以上に距離を勝手に詰められると、不快感を感じる。無意識に私は、訝しげな表情をしてしまったのだと思う。
私の行動や表情の一部始終を見ていた医師が、女に一言「すみません」と言って、女と私との間に割って入ると言った。
「お名前を教えてください」
咄嗟に答えようとして、私は言葉に詰まった。
『あっ……』
何も発することができなかった。
名前。
私の名前。
思い出せない。
少しも。
そんなことも思い出せない自分に苛立った。
私を見て、女は泣き崩れた。その女が泣き崩れるのを隣の男が支えた。「A……」と言いながら泣いた。
「医師が、これまでのこと、思い出せますか?」
と聞いて、何も思い出せない自分がいて
、初めて私は気付いてしまった。
「Aさんは、
記憶喪失になってしまったようです」
そう静かに医師が言った時、女は感情を露わにして泣いた。男は、悲しみを堪えるように表情を強張らせた。
この2人は両親なのかもしれない。
その時やっと、気付いた。
私は、過去の全てを失ってしまったんだ。
120人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かほ(プロフ) - 前作が好きだったので新作嬉しいです!! (2020年5月28日 17時) (レス) id: 43e673b672 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぴらみるふぃー | 作成日時:2020年5月27日 19時