ブラッド・アクション

【escape destiny】 5-1　ジェームズ ページ17

男はニヤリと笑みを浮かべると、車ががらんどうに無くなった所を熊のように歩いた。顎と額に傷跡があるが、かなり昔に作ったものだろう。最近ではない。


「ビアンカだな？ 戦いの最前線に立つ女はビアンカ・オルコットだと聞いているが」
「残念ね。私はキャロル・ロスタント・ヘンドリックス。
　アンタを倒すためだけに此処に来た。喧嘩では一度も負けたことないのよ」
「キャロル？」


　キャロルさんの言葉に首をかしげる。顎をさすさすと幾度とこすった後に、ああ、とひらめいたような口ぶりで話す。


「なるほどな。俺はここ数年間、連勝無敗なんだぜ。プロの殺屋に暗殺者、日本の忍者や侍だって今まで相手にしてきた男だ。

　現役の力をみせつけてやる」


　煙草の煙でも出すようにふーっと息を吐き、男は胸の筋肉を夜空にむけてぐーっと逸らせる。まるでスクリーンでキングコングを見ているようだ。
　キャロルさんは強敵を目の前に、すーっと酸素を吸い込むように唇をすぼめる。目を見開いて、挑発するように人差し指をくいくいと曲げる。


　男は橋を壊しそうな威力で２，３歩を踏み出した。黄金のナックルを頭上で輝かせると、鋭い目つきでグッと獲物をとらえる。男にとっては遊びなのだろう。振り下ろされた拳からくる音や風、一撃のパンチされも俺には違って思えた。


　パコォン、という音と共に男の瞼が閉じられた。砂埃が舞う中には男の凸凹した腕が一本あるだけで、キャロルさんの姿はなかった。男はあ？、とすっとんきょうな声を出して拳をゆっくりと自分の胸元へと持って行く。


　４本あった黄金の牙がひとつ、中心でポッキリと折れて失くなっている。俺はナックルを凝視した。かなりの代物であったであろうソレは、彼女を目の前には小細工でしかないのか。男の背後を初めからとったキャロルさんは、口角を上げて余裕の表情を浮かべている。


「私の姿が見えなかったとは言わせないわよ」


　男は面白いと思ったか、遊べると思ったか、折れたナックルで一心不乱にアスファルトにパンチをくらわせていった。地震でも起きたかのような振動に、俺の頭まで届く砂埃に思わず息を飲む。こんなド派手な戦いを女がしているのを見たことがなかった。


　しかも、あのキャロルさんが。

5-2　キャロル→←4-4　ビアンカ

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