10.不機嫌 ページ10
その次の日から挨拶が、上手く出来なくなっていた。少し意識し過ぎたのだと思う。その為今に至る。避けすぎて、真島さんに捕まっていた。凄い形相で見詰められながら。
「それで?何で避けてたんや?ワシの女になった途端やないか。わざとか?追いかけて欲しかった、っちゅー事やな。そうかそうか。気が付けなくて悪かったのう〜。」
『ちっ、違います違います!!あの、どう話したらいいか分からなくて...!あ、あはは!...スミマセンデシタ。 避けてる訳では無いんですよ!?ッ、いて..』
言い訳ばかりを並べていれば、ぐいぐいとこちらに近寄る真島さんから逃げる様に身体を反らせるとバランスを崩し床に倒れ込む。真島さんは、その上に被さるように乗り逃げ場を無くされてしまう。
綺麗に切り揃えられた髪が重力に従い落ちて、見える瞳には悲しさと怒りの色が混ざり合っていた。咄嗟に息を飲み、罰悪そうに瞳を逸らし真島さんの頭を撫でて。
『ごめんなさい...本当にわざとじゃないんです。 真島さんとその関係になってからどう関わればいいのか...』
「..、そんな事かいな。はー、落ち込んで損したわ。 態度なんて変えんくてええやろ。ワシは、Aの素のままに惚れた。惚れた女の態度が変わるもの程寂しいもんは無い。」
"惚れた女"と言われると少々むず痒く頬に熱が宿る。彼の瞳から先程の色は消え、何処か嬉しそうな色に塗り変わっていた。髪を撫でていた手を取られ体を起こされると、 お互いは向き合う形となり。腰に真島さんの逞しい手が回され引き寄せられる。
「なあ、..実は元々アンタに目付けてた言うたらどないする?」
『え?そうだなあ...。嫌じゃないです、どちらかと言えば嬉しいかな..。』
「...、ほんまに馬鹿な女やな。ワシは、手に入れたもんは絶対に離さへん。」
真島さんの整った顔が近寄り、微かにいい匂いが鼻を通る。 どこか上品な香りを放っていた。 自分の耳許に真島さんの顔が寄り低く色気のある声で囁かれる。
「...A、御前はもう逃がさへん。ワシの手の中に居ればええ。」
その言葉は、安心するような寒気がするような言葉だった。まるで依存されているかのように思えたが、其れは思い込みなのだろう。時計を見ればもう直ぐ出ねばならぬと真島さんから離れ立ち上がり。
『安心して下さい!私は、真島さんから離れようなんて1ミリも思いませんからね!ッふふ、』
彼という名の波に溺れて行って居るのだということを知らずに今日も仕事に足を進めていく。
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作者名:砂糖 | 作成日時:2020年3月7日 14時