4.友達 ページ4
その夜は長く感じた。布団を頭から被り同僚に電話を掛けるも、出るはずは無く一睡も出来ずに夜は更けていった。
仕事を休む訳にも行かず重たい体を起こしいつも通りの仕事着に袖を通しパンプスを履こうとしたが、そこには折れたパンプスが。 溜め息を一つ吐き運動靴に足を通し扉を開けると思わず目の前の光景に声を上げる。
『うわっ!?なっ、なんで..貴方が!?』
「っヒヒ!何やその顔。そういえば、今日はいつもより遅かったやないか?昨日の話は、まだ終わっとらんで。」
目の前には、寝不足の原因である真島が立ち塞がり手を取られたかと思えば抵抗する間もなく隣の家へと連れ込まれてしまう。中は何とも豪華で何処に居ていいのか分からず床に座ろうとするとそのまま腕を引かれ、ソファへと。
「それで?正直に話して貰おか?何処の組や。それとも、ただ俺目当てかいな。女は、金、権力、それさえ揃ってれば..」
『私は、ただ、貴方と、..話したのは..友達になりたかったから。それだけじゃ、駄目ですか?』
また同じ質問だ。然し此処は彼の部屋の為逃げ道なんてある筈も無く素直に話せば、彼は驚いたように何度も瞬きをした後大声で笑い出した。
「っヒヒ、ヒヒヒ!なんや、 そんな事か。すまんかった、俺が誤解してたんやな。せや、ほなら今度の日曜日..。 」
その先の言葉は聞けなかった。真島のポケットから着信音が鳴り電話に出ると短い返事だけ返し、携帯をしまう。 大きな溜め息を零す様子を見て慌てて立ち上がり、
『私も仕事に行ってきますね!あの、真島さん。言い遅れましたけど.. 。 』
「おはよう、やろ?律儀やなあ。 俺も仕事入ったから行くわ。ほなな。」
初めて言われた挨拶と微かに綻んだ口許に胸が締め付けられるような感覚になった。心臓をばくばくと鳴らしながら早足に歩き、頬に宿る熱を冷まそうとしていた。
その仕事の後、穂波と呑みに来て居たのだが話題は真島の事ばかりであった。暫くして痺れを切らした穂波がビールのジョッキを飲み干し、机に叩き付けるように置かれ反射的にそちらを見る。
「その真島さんって人が好きなんじゃない?あっ、今度遊びに誘ってみたら?真島さんを。 私ならそうするな〜 。」
『急過ぎない?でも、友達ならそうだよね..。さり気なく誘おうかな。』
この時はまだ知らなかった。この時よりもあの人を好きになってしまう事を。そして大きな事件に巻き込まれてしまう事も。それを知らず、残る酒の全てを飲み干した。
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作者名:砂糖 | 作成日時:2020年3月7日 14時