3.狂犬の素顔 ページ3
夢では無かったようで､現在真島さんと喫茶アルプスで下らない話をしている｡ どうやら真島さんはこの世界の悪と戦っているそうで､怪我が絶えないのだとか｡
その"悪"というのは何を指しているのかは不明ではあったが､そこまで深くは聞かなかった｡ 友達になるのに欲しい情報ではないから｡
「へえ､アンタは花屋やっとんのか｡あの今朝の華､ ワシの部下が喜んで飾っとったで｡.. それで､聞きたい事あるんやけど､ ええか？」
『！良かった〜 .. ､ え？聞きたい事ですか？マリーゴールドは､ 日当たりがいい所に置いて下さい｡ じゃないと枯れるのが早まりますからね？』
彼は確かに厳つい見た目をしているが､華を飾り､育て方まで聞いてくるこの人が悪い人だとは思わない｡ 珈琲が入ったカップを手に取り一口飲むと珈琲独特の苦味が口内に広がり､疲れが取れていくようだった｡
「あ"ー .. ､ それは部下に言うとくわ｡ ワシが聞きたいのはそれやない｡ アンタの事や｡ 」
『私の事？.. ､ な､ 何も教える事なんて無いですよ!?必要最低限の生活しか .. ｡ 』
「御前､ 何処の組のモンや｡ あの時助けただけで突然､ 話し掛けてくるようになった｡ 御前の親父は？ 答えんと .. ､ 強行に出るしかなくなるで｡」
何を言われているのか分からなかった｡"組"や"親父"なんて言われても別に極道組織に属している訳でもない自分は答えようがなく黙り込んでしまう｡ その時瞳に映った彼の顔が今でも忘れられない｡
まるで､鋭い目付きをした狂犬のようで｡ 固唾を飲み彼の目から逃れようと珈琲を飲み込めば立ち上がり､自分の分のお金をテーブルに置き｡
『ごめんなさい！あの､私何も知りません｡ お金は置いて行きます｡ 』
「は？お､おい！まだ話は終わってへんぞ､待てや！」
そんな言葉は聞こえる訳もなく家まで走り帰る｡怖かった｡その刹那､パンプスは音を立て折れてしまえば体制を崩しその場に転んでしまう｡膝や手から鮮血が垂れ地面に落ちていく｡
パンプスを脱ぎ其れを持てば玄関に手を伸ばし入ると鍵を閉めてしまう｡ まるで今日の記憶をも思い出せぬよう鍵をかけるように｡ 彼と住む世界が違うのは薄々気付いていた｡だが､仲良くなれたと思っていた｡
『私の .. ､思い違いだったのね｡ そうよ！だって､ まだ話せて二日だもの｡仲良くなれる訳がっ..！』
ぼろぼろと零れる大粒の涙は手の傷に染みていく｡あの時に見たお隣さんの顔は恐ろしかった｡
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作者名：砂糖 | 作成日時：2020年3月7日 14時
