突然出会った王子様 5 【染谷勇次郎】

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(勇次郎side)



これで、少しは。



ほんの少しのことだけれど。



たった1つ。



けれど、今までならば絶対してこなかっただろう。



愛蔵に自ら謝るなんてこと。



僕が原因で起こした喧嘩のことを謝っただけ。



当たり前と言えば当たり前のことかもしれない。



けれど、これで、少しは。



今回出来たように、これからは。



こんな子どもじみた自分を、彼女に見合うような人間に、少しずつでも変えられるだろうか。







「おい、収録始まんぞ」



「分かってる」







席を立ち、瞼を閉じ深呼吸をして気持ちを切り替える。



瞼を閉じ視界をシャットダウンした瞬間、浮かんできたのは彼女の姿。





……ダメだな





気持ちを自覚すれば、この気持ちは膨らみ続けていくらしい。





…こんな気持ち、本当にあるんだな





今まで歌ってきた歌詞。



口に出してきた台詞。



シラフで言うには恥ずかしいような、けれど歌い口に出す分には慣れているはずのこんな気持ち。



『よし』と自分自身に呟き瞼を上げ、ドアで待っている愛蔵の方へ向かう。







今日の収録では、年が近い人が多く出演するらしい。



出演者を脳内で思い出してみる。



既に共演したことがある人は成海さんぐらいだっただろうか。







「……あ、ねえ」



「んだよ」



「成海さんって確か好きな人いたよね？」







2年程前、撮影が一緒になったときの成海さんの様子が思い出された。



撮影の休憩中、スマホを見ながら頬を赤くして漫画のようなまさに『恋する女子』の顔をしていた成海さん。



通りすがりに背後からスマホを見させてもらうと、『濱中君』という人とのメッセージ画面を見ていた。



成海さんはその濱中君という人のことが好きなのだとすぐに気が付いたわけだが。







「多分そうだったんじゃねーか？」



「やっぱり」



「……なんだよ、今度は何するつもりだよ？」



「……………いや別に」



「おい、その間はなんだ。その間は」



「あ、収録もう始まりそうじゃん。早く行こ」



「おいっ、無視すんなって！」







　

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