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(勇次郎side)
僕の後を追ってきたのだろうか。
全く気付かなかった。
愛蔵は僕の正面にある椅子にドカっと腰をおろす。
「……別に。なにもないけど」
「ウソつけ。そんなわけないだろ。絶対なにかあっただろ」
『正直に話せ』と愛蔵の目が語っている。
こいつは僕の家のことをほとんど知っている。
けど、話したくはない。
「……あったけど、話したくない」
「……あのなぁ………お前がいつもの調子じゃねぇと俺まで調子狂うんだわ。ってことで、話せ」
『お前のせいでこれ以上練習止まるのも嫌なんだよ』と言う愛蔵は真っ直ぐにこちらを見てくる。
その真っ直ぐな視線に耐えられなくて顔を横に逸らせば、目の前から『はぁぁーー』と盛大なため息が聞こえてきた。
反らしていた視線を愛蔵に戻してみれば、愛蔵はポケットからスマホを取り出しいじり始めていた。
「じゃあ、俺は聞き流してるから。ここには俺以外誰もいねえよ。……だから、話せ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……さっき、今度の週末にある弟の舞台を見に来いってメールが父親から届いた」
「…………」
「……この前、弟に会った。『頑張るから』って言われた」
「…………」
「……それだけ」
「…………」
宣言通り愛蔵はずっとスマホをいじり、僕の話に相槌をうつこともなく聞き流すことに徹している。
一番有難い反応ではある。
けれど、やっぱりどこか落ち着かない。
すぐそこにある自販機でブラックコーヒーとココアを買い、コーヒーを愛蔵の前に置いた。
誰にも言いたくないようなことでも、誰かに聞いてほしいという矛盾な気持ち。
そんな気持ちがお互いに分かるのかもしれない。
レッスン室を出る前に水を飲んできたし、ここは涼しいからダンスを踊った直後のように喉がカラカラなわけではない。
となると、自然と手が伸びたのはやっぱりココアだった。
口につけたココアは今までに飲んでいたものと変わらないはずなのに、彼女がいれてくれるものを飲み慣れているからかどこか味気無く感じた。
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朔藍(プロフ) - ハリネコ@サブさん» ハリネコさん!!お久しぶりです!!連載中に頂いたコメントでもすっっっっっごく励まして頂きました本当に感謝感謝すぎる泣泣最高の読者様に読んで頂けて好きになって頂けてこれほど作者冥利に尽きるものはないです泣泣ありがとうございます大号泣 (9月13日 18時) (レス) id: 2d55a4ee9e (このIDを非表示/違反報告)
ハリネコ@サブ - 藍朔さん‼お久し振りです。サブから失礼してますハリネコです!久々に読みたくなっちゃって来ちゃいました笑もう五週目とかほんとにこの作品好きすぎてやばーいいい笑何回読んでも最高です! (9月13日 15時) (レス) @page5 id: 690aee62a7 (このIDを非表示/違反報告)
あーー(プロフ) - 相川あゆさん» ありがとうございます!今更で返信遅くてすみません…続きも読んでくださると嬉しいです!これからもお願いします! (2021年12月31日 16時) (レス) id: 7586c4e066 (このIDを非表示/違反報告)
相川あゆ - 推します (2021年10月22日 7時) (レス) id: 1dc4ab95d2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朔藍 | 作成日時:2021年10月21日 21時