突然出会った王子様 7 【染谷勇次郎】

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(勇次郎side)



シャーペンを走らせる音と紙を捲る音だけが聞こえる。



テレビの正面の位置に座り、ローテーブルに広げられている提出物と睨みあっている彼女。



いつもなら軽く笑い飛ばすような、この見慣れた光景。



彼女がいるこの空間が、一番落ち着く空間のはずなのに。



さっきからシャーペンを指で回しているだけで提出物の内容がろくに頭に入ってこない。



その代わりかのように脳内にこびりついて離れてくれない、彼女と川坂さんのツーショット。







「……はぁ」







無意識に出る溜め息は今日で何度目だろうか。



頬杖を付きながら彼女の方に視線を向けていると、何故か口が動いていた。







「……ねぇ、A」



「なにー？勇次郎」







……やば



なにも用事ないのに無意識に名前呼ぶとか



……重症すぎるでしょ







「…英語、ちょっと教えて」



「え、珍し」







少し驚いたような表情を向けてくる彼女。





…まぁ、だってほんとは分かってるし



なんとか自然な言葉探して出てきたのかこの言葉だっただけだし







「どこ？」







自分用の提出物を寄せ、僕の方に顔を寄せてくる。







「？……勇次郎？」







分からない箇所を言わないからか、不思議そうに彼女は僕を見上げる。



胡桃色の瞳と視線が絡んでしまえば、どうしても、正直な自分が出てしまう。
　






「A」







近くなった彼女の頭に、手を乗せてしまった。



僕以外の男に触られていた彼女の頭。



勝手な僕の我儘だと分かっていても、上書きさせたかった。



残っているであろうその感触を、体温を、僕で上書きさせたくて堪らなかった。



不思議そうな表情だった彼女の顔が徐々に緩み、ふにゃりとした安心したような笑みになってゆく。





……ねぇ、A



その表情も、川坂さんに見せたの？



やだよ



僕だけに見せてよ



他の男に見せないでよ



そう、言えれば────







「なんか、安心する」







……え？







「今、今日一安心してるかも……あ"、やば、私、キモい」







一人言のように呟き、彼女は顔を紅く染める。





A



それ、Aは川坂さんより僕の方が、一緒にいて安心するって、捉えてもいい？







「…勇次郎、さっき私が言ったやつ、聞こえた？」







　

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