あの生意気系後輩が帰ってきました。

kumamoto. ページ45

「寂しくないんすか？」

車屋「ん？何が」

彰悟さんが旅立って随分経った。最近紳くんとか私のロッカーやら周りを掃除していると、彰悟さんの私物が出てくる。

「これ。彰悟さんの借りパクしてたんでしょ？」


ヘアバンド。

彰悟さんは普段全然ヘアバンドを付けない。私が入りたての時、シーズン開幕してまもない頃に紳くんが彰悟さんに貸してくださいよ〜！ってずっと付きまとってたのが印象的で、今でもはっきり覚えていた。



車屋「あー。渡し忘れたかも」

「記事でもあっさりって言われてるけどさ」


紳くんは、幼稚園から大学、そして川崎フロンターレまで彰悟さんと一緒。

小学校のスクールだって彰悟さんに誘われて入ったらしい。そんな紳くんが寂しくないはずなんてない。出会って7年になる私が寂しいのに彼が寂しくないはずない！絶対に。

ニュース記事、彰悟さんの送別会では『そうですか』とあっさりだったって言われてるけど、絶対そんな事ない。




車屋「寂しくはないよ、別に。ただただ、まだ俺は追い越せないのかって思っただけ」

「え？」


紳くんは、彰悟さんを追い越せないライバルって言ってた。

代表も、移籍も、全部先を行く彰悟さんにまた抜かされたって呆れてただけって。

車屋「だから、今年は優勝してダブル取って彰悟さんに、彰悟さんが居なくても俺は大丈夫ですからねって言うのを見せつけるの」

絶対強がりやん、こんなの。送別会の時だって泣いてたし、誰よりもいちばん彰悟さんに近くて誰よりもいちばん彰悟さんのことを知ってるのは紳くんなんやで？

「それはそう。彰悟さんに自慢したろ」

彰悟さんへのエールも込めて。

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