ただ・・・好きなだけ。 (ページ9)

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美風藍ページ9

私は、ただただ意味が分からなかった。

「だから、ここをこうするの。ったく、本当に君不器用だよね。」

なぜか、毒づかれた。

寒い寒い冬が来る、少し前。私は教室でひたすらマフラーを編んでいた。
すると、後ろから急に可愛い顔をした男の子が現れて、なぜか親しそうにマフラーの編み方を、手取り足取り教えてくれた。…誰なのかは、わからない…。

「ちょっと、聞いてる？」

そう言って目の前の人は、顔をあげる。そして今、初めて目が合った。
目の前の人は、急に目を丸くした。

「え、君、誰…？」

どうやら私は、誰かと勘違いされていたようだ。一応自己紹介する。

「えっと、初めまして。Aと言います。」

「あっ、えっと美風藍です…。」

謎の沈黙がおとずれる。

マフラーを編むために使っている棒をつかむ、私の手の上から重なる彼の冷たい手。
私の意識は、そこにばかり向いていた。

「あの、手。すごく冷たいんですね。」

私は、ぽつりとつぶやいた。
すると、カァ―っと美風さんの顔が赤くなり、美風さんはバッと手を引っ込めた。

「なんかごめん。」

小さく彼は謝る。

「あっ、いえ、大丈夫です。…そのー。なんでしたら手袋作りましょうか…？」

私は彼にそう申し出た。ただ、当の本人はすぐさま

「大丈夫。いらない。」

と、言い切った。

「でも、寒くなるし、これから！」

私は、いらないと言われたことに少し落ち込みながらも、そう言う。

「つけても意味なさそうだから。」

毒づかれた。

「何が意味ないんですか！？」

私は強気でそう言う。

「だって君、編み物とかヘタそうだし…現に下手だけど。手袋じゃないもの渡されても困るし。」

ヘタだと言われた。

「それは…！これからうまくなるんです！だから下手じゃないし！」

もうやけみたいになって、その後５分ほどぎゃあぎゃあ言い合っていた。…うるさいのはほとんど私だけど…。

「あ、ここにいたー」

廊下の方から声が聞こえた。振り向くと、そこには同じクラスの嶺二君がいた。

「あっ！Aちゃんヤッホー！」

私も「ヤッホー」と返す。

「アイアイ。ダンス練あと５分！はーやーくー！」

それを聞いて美風君は、「今行く」といい、廊下側へと歩いて行った。
そして、教室の扉を閉めて歩いて行ってしまった。

急に静かになった教室。私は、また席につき編み物をはじめようと毛糸に手を伸ばした。
すると、一つの紙が置いてあることに気付いた。

手袋。貰ってあげる。