ただ・・・好きなだけ。 (ページ8)

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一ノ瀬トキヤページ8

ありえないと思った。

でも、それを真実だと伝えるかのように、心臓のテンポが速くなっていく。

そして、追い打ちをかけるかのように、彼は私の左手首をつかんで、壁にバンッとおしつける。それとともに、私の背中も壁にぺったりとつく。

壁の冷たさと、彼の手の温かさが入り混じって、どうしてこうなってしまったのかと私を悩ませた。

「本当に好きなんです。Aさん。」

目の前にいる彼。国民的アイドルの一ノ瀬さんが、苦しそうな声でそう言った。

どうしてこうなったのだろうか。それしか私は、いまだに考えられなかった。

春。

私は、マネージャーという職業についた。時には失敗を繰り返しながらも、先輩のお手本を見て習い、頑張って、頑張って、頑張りぬいた。

そのおかげか、嬉しいことに２年後には、アイドル『ST☆RISH』の一ノ瀬さん専属マネージャーとなった。

ただし、２年間しか働けない。

アイドルの恋はご法度。

だからこそ、マネージャーがそういう関係に発展しないようにという、事務所側の考えだという。

だが、今私はその規則を破ろうとしている。

「一ノ瀬さん。ダメです。こんなの規則違反です。」

彼にも、自信にも言い聞かせるように私は言った。

「こんなの…ですか…。」

呟くようにして、ぽつりと一ノ瀬さんは言う。

そして彼は、急に私の右肩に顔をうずめる。

「一ノ瀬さん。バレたら大変です。第一に、私たちこんなことする関係ではないじゃないですか。」

そう言いながらも、私の心臓のテンポは速くなっていく。

一ノ瀬さんとの距離が近い。

あぁ。だめだ。だめだめだめだめ。

心の中で、そう自分に言い聞かせる。

すっと、肩の温もりが消えた。一ノ瀬さんが離れたのだ。

でも、すぐに温もりは戻ってきた。体のどの場所でもない。

それは、私の中に、新たに生まれた温もり。

彼の一言によって。

「もう一度言います。私はあなたが好きです。イケないことだってわかっています。こんな感情を持ってはイケないということも、わかっています。でも、好きなんです。だから、私と……付き合ってほしいんです。……ダメですか？」

愛という名の温もり。

そして彼と居れるタイムリミット、あと半年。