天下の双黒様だって彼女様には敵わない 【双黒/短編集】

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「まぁた転んでる。ふふ、泣かないの」

声が聞こえた。太宰さんの、太宰さんの声。
愛しい愛しい彼の声。透き通るような、綺麗な声。

「っえ…」

涙はもうとっくに乾いていて。
面を勢いよく上げた。

「翔くんは男の子でしょ？」
「っうんっ…ぼくもうなかないっ…」

公園にいるのは一人の男の子。
その男の子の前でしゃがんでいるのは一人の女性。

「…」

また、アスファルトにシミを作っていった。
波紋のように、アスファルトはシミを広げていく。
悲しくて、会いたくて。何処に行ったんですか、本当に。

「もう泣かないの。本当に泣き虫さんだね」

いつもそう言って、意地悪くて。いつもピンッて中指で額をはじいてくる。
けど、ほんのりと微笑んで、おいでおいでって。
貴方は、いつもボロボロだった。どれだけ怪我しても、どれだけ骨が折れようと
貴方は私が怪我していたら自分なんか後回しでいつも私の傷を先に手当てしてくれてた。

私が辞めてって言っても、彼は辞めなかった。
崖の淵に立つように、死に際になったって、ベットに沈んだままゆっくりゆっくりと
私の頬をするりと手で撫でてくれて、泣き虫さんだねって。
私を更に泣かせるように、意地悪く笑うんだ。

貴方の好きな歌。
今でも新鮮に覚えてる。いっつも口ずさんでいて。
貴方が毎日毎日歌うから、私は覚えてしまった。
一緒に笑いながら歌ってさ。

「…君の手を離した僕」

サビの一フレームを口ずさんでみる。
けど、矢張り貴方がいないとどうにも気分が乗らない。
こんな、ちっぽけな歌何て。こんな、空っぽな、形のない歌だなんて誰の心にも響きやしない。

「「また今度」君は笑った」

ザッザッと地を蹴る。
息が切れて、肺が締め付けられて、耳は冷たくて。
耳の冷たさに、不釣り合いな生温い何かが頬を伝った。

嗚呼、まるで。
この歌は、歌詞は私たちの為にあるみたいだ。
太宰さんの、彼の手を離してしまったから。
貴方は何処かにふらりと、空を浮かぶ風船のように行ってしまった。

彼と私が、初めて出会った場所。
綺麗な街を見下ろせれる一つの丘についた。

「太宰さん…」

ふと、いつも撫でてくれたその暖かい、大きな手が見えた気がした。
嗚呼、夏だというのに日が暮れるとここまで寒いのか。
うるさい蝉の鳴き声も今日はやけに寂しく感じた。

―――

※この歌詞は私が考えた歌詞です。

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