ニーナ - izw ページ1
side : izw
────大学時代の同期と再会したのは、本当にもうただの偶然であった。
都心、平日の夜の駅構内は、仕事終わりのサラリーマンやらOLやらで大変な混雑を見せていた。
テレビ局からこの駅へと戻って来た俺もそのうちの一人。
社会人の正装だというのにどうも慣れないスーツを着つつ、壁に凭れては先方へのメールを打っていたのである。
6月の夜は蒸し暑くって仕方がない。
上着を足元に放り、ワイシャツの袖を幾らか捲ればあとは携帯と睨めっこ。ああでもないと言葉を慎重に選びつつ、時折単語の意味を調べたりなんかして。
「────あ、」
そんな時だ。甲高い女性の声がひとつ、俺の正面で鳴ったのは。
ふと顔を上げるとどうも派手な髪色をした女性が俺の前でしゃがみ込み、放り投げていたスーツの上着に触れていた。
「すみません、これ踏んじゃって……」
…と、聞くにどうやら俺の上着を踏んでしまったらしい。女性は申し訳なさそうな声色で上着を拾い上げ、付いていた汚れをぱんぱんと払った。
女性の手にはこれまた派手なネイルが両手に揃って付いている。失礼ながら夜職の方かななんて予想がふと浮かんだものだけど、まさか口にするわけにもいかない。
「あー、大丈夫ですよ。そこに置いといた俺が悪いんで…、」
ひとまず未だ俯いたまま汚れを払う女性にそう言った。地面に放っておいたのは俺だ、非はこちら側にある。
そこまで聞き終え、女性はやっと汚れを払う手を止めた。またひとつ「すみません」だなんて言いながら立ち上がり、俺に上着を差し出すと共にその顔を上げ。
「…………え、」
俺の顔を見て、何故か数秒の間だけ固まった。
一目見た限り、女性はかなり化粧を厚く施している様だった。一目で見て高そうな服、高そうなバッグとアクセサリー。
思わず俺はまずそれらに目が止まってしまい、彼女の顔をしっかりと視認したのは遅れること数拍の後、だったのだけど。
「……え？」
「…あ、………え？」
零れ落ちたような女性の言葉を、俺が反復した。
………何だろう。この顔、何だか見覚えがある。
厚い化粧によく巻かれた明るい色の髪でボヤけ、一目でピンと来はしなかったけれど。
……コイツもしや、まさか。
「────……A？」
大学時代の同期で、且つそこそこ仲が良かったA、…に見えてしまうのは、俺だけなのか？
→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1872人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
r(プロフ) - コメント失礼いたします。ひっそりと『マリア・テレジアへ賛美歌を』のAルート／Bルートお待ちしております……！ (2022年5月8日 13時) (
レス) id: 4f9004a1a0 (このIDを非表示/違反報告)
まるまいん - はじめまして、本日初めて作品を知りシリーズを最初から最後まで全て読ませていただきました。登場人物のリアリティー、簡潔ながらわかりやすい描写と気になるストーリー構成、どれもとても魅力的でした。続きも楽しみにしております。 (2022年4月25日 4時) (レス) id: 3aac2cf622 (このIDを非表示/違反報告)
みゃお - 初めてコメントします！どのお話も本当に引き込まれて大好きです…！ラブレターには名を記せの続編がどうしても読みたいので、いつか書いていただけたらと思います。よろしくお願いいたします！ (2022年4月18日 0時) (レス) @page21 id: d140b06251 (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - 更新されていてびっくりしました…！ これからも応援させて頂きます。 (2022年4月1日 0時) (レス) id: db21360bfa (このIDを非表示/違反報告)
凪(プロフ) - 良質な読みものに心臓がドカドカする感覚をものすごく久しぶりに味わって感動しています…これからも楽しみにしています！！どうかご無理はなさらず！！ (2022年3月31日 0時) (レス) @page33 id: 86acd73901 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：290円
| 作成日時：2020年10月24日 6時
