ニーナ - 8 ページ8
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「…………なら、私を買って。」
「………助けになりたいって言うなら、私の身体を買って。」
二度、Aは同じ意を持つ言葉を口にした。
何度訪れたかもわからぬ静寂が、ふと届く駅構内のアナウンスにコーティングされて居座る。ガラスの奥、急ぎ足のサラリーマンが改札を抜ける。
震えた声、確かな意志を持つ瞳、弧を描かぬ口元。
────俺の、理想の人間たる、Aは。
「………何を言われたって、今の私の救いは彼なの。彼が喜ぶことが私の『助け』なの。」
声の震えが一段とひどくなった。突けば泣いてしまいそうなほど力が込められた肩に、何かを堪えるが如く瞳が揺れる。
Aを助けたいと思った。
苦しんでいるのなら、笑えないのなら、せめて勝手に理想だと崇めていた俺が、彼女をどうにかしてやれないかと。
「────彼が喜ぶのは、私が沢山お金を稼ぐことなの。」
………その彼女を助ける手段がこのひとつしかないなんて、一体誰が予想しただろう。
もう何処へ感情をやれば良いかもわからなかった。動揺よりも先に悲しさが込み上げ、両の目を見張ることさえできない。
どうしたらいいのかすらパッと思い付きやしないのだ。
彼氏に怒りを向けるのも、Aを想って泣くのも、呆れてこの場から立ち去るのも全部違う。
助けたいのだと垂れた。手段が提示された。
けれども今、こうして動けやしない俺は。
「………」
────期待。期待だ。
期待していたのだ、ほんの少しだけ。
口にすれば何かが変わるんじゃないかって、Aが彼氏に縛られるのを辞めるんじゃないかって、それでまたあの頃に戻るんじゃないかって、少しだけ。
俺が夢を見ていたのは過去のAだった。
笑い、周りを和ませ、ひたすら前にだけ向かっていたAが、俺は思い出の中の産物であれ愛おしくて愛おしくて。
故に笑わぬ彼女が悲しくて、俺は、
「………、
……………わかった。」
────……俺は、いいえと言えなかった。
思い出の中のAがあまりにも綺麗で、まだ縋っていたくって、今や変わってしまった彼女をも見捨てられなくて。
「…………俺でいいなら、いくらでも。」
助けたいと垂れた俺は、正義感を盾にしていた俺は、最後まで似非を貫けなかった。
きっとこの先も過去の彼女に縋ったまま、一歩も前に進めやしないのだ。
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彼が私に手を出さない101の合理的な理由 - kwmr→←ニーナ - 7
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r(プロフ) - コメント失礼いたします。ひっそりと『マリア・テレジアへ賛美歌を』のAルート／Bルートお待ちしております……！ (2022年5月8日 13時) (
レス) id: 4f9004a1a0 (このIDを非表示/違反報告)
まるまいん - はじめまして、本日初めて作品を知りシリーズを最初から最後まで全て読ませていただきました。登場人物のリアリティー、簡潔ながらわかりやすい描写と気になるストーリー構成、どれもとても魅力的でした。続きも楽しみにしております。 (2022年4月25日 4時) (レス) id: 3aac2cf622 (このIDを非表示/違反報告)
みゃお - 初めてコメントします！どのお話も本当に引き込まれて大好きです…！ラブレターには名を記せの続編がどうしても読みたいので、いつか書いていただけたらと思います。よろしくお願いいたします！ (2022年4月18日 0時) (レス) @page21 id: d140b06251 (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - 更新されていてびっくりしました…！ これからも応援させて頂きます。 (2022年4月1日 0時) (レス) id: db21360bfa (このIDを非表示/違反報告)
凪(プロフ) - 良質な読みものに心臓がドカドカする感覚をものすごく久しぶりに味わって感動しています…これからも楽しみにしています！！どうかご無理はなさらず！！ (2022年3月31日 0時) (レス) @page33 id: 86acd73901 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：290円
| 作成日時：2020年10月24日 6時
