板挟み ページ9
.
しかし福良さんはそんな事情知ったこっちゃない。器用にもう片手でパソコンを立ち上げ、おにぎりを一口頬張った。
「───で。こっちで色々決めるのもあれだし、伊沢と2人でどこの店がいいか決めといてほしいんだよね」
「あー……、」
「予約は俺が取るし、伊沢もそろそろ来るからなるべく早めにね。できれば個室取れるとこが……、」
………は?
何だかすごくまずいことを聞いたような気がして、思わず私は身体の動きを止めた。
福良さんは話を続けている。当日来れる人数の予想から須貝さんは研究の発表があーだこーだと、またそれも淡々と。
……いやいや、ちょっと待ってって。
私の勘違いだととても嬉しいのだけれど、記憶の限りでは恐らく。
「………伊沢、そろそろ来るんですか?」
確かにこの人、穏やかな口調でそう言ったはずで。
「え、来るけど」
「は?」
「え?」
いや年上相手にこんな態度を取ってしまい申し訳ない。でもしかしながら、今の私にはそんなことより大事な事案が存在している。
視界の隅、パソコンに目を奪われているふりをしつつこちらの会話を聞いている山本くんの言葉だとか遥か3年前の約束だとか、色々。
とにかくたくさん、処理しきれていないことがあるというのに、だ。
「えッ、いや、その、……早くないですか?だってほら、まだ6時半だし……」
「さあ。何か残した仕事終わらすために早く来るらしいよ」
「は、えッ、あいつ仕事残したままなんですか?」
「らしいね」
「終わらせとけよそんなの……」
思わず出たぼやきにまた吹き出した山本くんが「Aさんも同じじゃないですか」と呟いた。ちょっと静かにして。
……いやしかしこれはまずい。
確かに今日伊沢に会うことを避けられないのは承知の上だけど、なんだってこんな早い時間から顔を見なきゃいけないんだ。
それだけならまだしも大きな懸念材料───こと山本くんがそこに鎮座しているし、何より彼は3年前の約束を知っている。
この私が気まずい状況の板挟みにどう耐えられようか。すごい逃げたい。
ひとまずどうにかせねば。
そう私が顔を上げ、不思議そうに私を見ていた福良さんと目を合わせると。
「……あ、ほら。来た」
無常にも背後で玄関の開く音がして、やはり私は何を言うことも許されない。
私に恥とプライドがなければ泣き出していたくらいの不運だ。私が何をしたと言うのだろう。
.
805人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
霞(プロフ) - すごく好みの雰囲気です…。更新楽しみに待ってます!!頑張ってください (2021年2月23日 23時) (レス) id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
オレオ_ッピ推し(プロフ) - 何この話どタイプ……気長に更新を待ちます。( ºωº ) (2020年11月5日 1時) (レス) id: dfcf88994a (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 私も大好きです…更新楽しみにしてます( ^ω^ ) (2020年10月29日 21時) (レス) id: cb54059665 (このIDを非表示/違反報告)
こあら(プロフ) - 何これ好きぃ……………… (2020年10月19日 8時) (レス) id: df8e2a19f1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:290円 | 作成日時:2020年10月9日 19時