不可思議 ページ7
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山本くんとの的を射ない話し合いは不可思議にも続いた。
最早初めから理解し合えていない会話を話し合いと呼ぶのかすらもわからないけれど、形式上はそうだったのだから仕方がない。
───兎にも角にも、山本くんは引かなかった。
「だからさ、そもそも恋人同士じゃない私たちが結婚ってのもおかしな話で……」
私がああ言えば。
「え、必ずしも恋人同士じゃないといけないって決まってるんですか?」
山本くんはこう言う。
「いや、普通に考えてそうでしょ。交際の過程をすっ飛ばすなんて非常識じゃん」
ああ言えば、
「でもそういう人たちもいるじゃないですか。聞くでしょ、交際0日婚とか」
……こう言う。
そして私は、情けないほどに論争というものに弱かったらしい。確かに覚えのある単語を出され、終いには項垂れることしかできず。
その上それを好機と思ったらしい山本くんは、更に追い討ちをかけてきた。
「ねえ、何でそこまで嫌がっちゃうんですか?
伊沢さんの誘いには簡単に乗っかったのに。」
『伊沢』。
まさか出てくるとは思いもしなかった単語に、今度こそ私は押し黙った。というか口どころか身体のひとつすら動かせなかった。
今朝───否、先週から私の頭に勝手に居座る編集長の名。
ここでそれが引き合いに出てくる事実はつまり、目の前で朗らかに笑う彼は、あの場で私たちにしか聴こえていなかったはずの約束を、
「………知ってるの?」
そこで初めて、私は山本くんと数秒に渡って目を合わせた。
山本くんは溜めもクソもなしにひとつ頷く。
約3年前、あの日。私が酒臭いプロポーズを受けた日。あの宴の席で山本くんがどこにいたかを思い出そうとしたけれど、記憶が残っているはずもない。
けれども確かに彼は頷いた。
それはつまり、明日で約束が実行されてしまう可能性があることを、彼は知っていて?
「だから急がないとなって思って。突然で驚かせちゃったのは申し訳ないんですけど、僕も時間ないんですよ」
山本くんは困ったように笑った。本当に困っているのかもわからない。
「早くしないと伊沢さんに取られちゃう」
もう、何か、何というか、突然とか唐突とかいう話じゃない。
話がぐちゃぐちゃだ。今までの全部もよくわからなかったのに、伊沢の名が出てもっとわからない。
故に私は、やはり抗議をすべく立ち上がって。
然しそれは、背後から聞こえた粗雑な音に弾かれた。
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霞(プロフ) - すごく好みの雰囲気です…。更新楽しみに待ってます!!頑張ってください (2021年2月23日 23時) (レス) id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
オレオ_ッピ推し(プロフ) - 何この話どタイプ……気長に更新を待ちます。( ºωº ) (2020年11月5日 1時) (レス) id: dfcf88994a (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 私も大好きです…更新楽しみにしてます( ^ω^ ) (2020年10月29日 21時) (レス) id: cb54059665 (このIDを非表示/違反報告)
こあら(プロフ) - 何これ好きぃ……………… (2020年10月19日 8時) (レス) id: df8e2a19f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2020年10月9日 19時