後輩として ページ15
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───最近どうも忘れかけていたことなのだけれど、伊沢はかなり多忙であった。
まあそりゃCEOだし編集長だし、その上タレントでもあるし。正直最近は別のところに意識が向いていたからアレだけど、伊沢は忙しいのだ。
どれくらいかと言えば、朝からオフィスにいた私でも昼まで姿を見かけなかったくらいには。
「Aさん」
背後から聞こえた声にビビり散らし、何事かと思うほど肩が跳ねた。……もう振り向かなくたってわかる。この妙に機嫌が良さそうな声は山本くんだ。
外撮影やら会議やらが重なり、今日この日の伊沢はあまりオフィスに顔を出さなかった。すごく助かる。
そのおかげで私の仕事の進みはすこぶる良かったのだけど、何と同じく忙しそうにしていた山本くんの方は仕事から解放されたらしく。
「一緒にお昼ご飯食べにいきましょう」
……そう楽しげに声を掛けにきたわけである。何なんだ彼は。ガッツがありすぎないか。
「……誰と?」
「僕と」
「何人で」
「2人です」
「ごめんなさい」
「えー!」と山本くんが声を上げるも今日だけは本当に駄目。私のメンタルじゃ山本くんの手も引っ叩くことになってしまう。それじゃただの暴力女だ。
山本くんは食い下がったが、私も名誉とメンタルのために譲るわけにはいかない。尊厳が懸かっている。
……そんな調子で行く行かないの攻防を5分ほど繰り広げていたわけだけど、周りから見た絵面はひたすらに異質である。
通りかかった河村さんには変な顔をされ、福良さんには見て見ぬフリをされ、それでも引くわけにはいかなかった。
「え、Aさん達ご飯食べに行くんですか?」
そんな最中、そう私たちに声を掛けたのは偶然通りかかったらしい渡辺くん。
確か彼も忙しそうにしていたはずなのだけど、やっとこさ休憩が貰えたらしい。渡辺くんも仕事できるからなあ。
「行かないよ。私まだ仕事残ってるし」
「えー、着いて行こうと思ったのに……」
む、と渡辺くんの頬が膨れた。……くっ、可愛いな。後輩としてのあざとさを分かっていやがる。
すると山本くん、一体それをどう解釈したのだろう。閃いた!とでも言うように両手をぱちんと叩き、にっこり笑ったではないか。
「あ、じゃあ3人で行きましょうよ。それなら良いでしょ?」
「……はい?」
……何をどう考えれば「それなら良い」になるのだろう。私には全く以って理解ができなかった。
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霞(プロフ) - すごく好みの雰囲気です…。更新楽しみに待ってます!!頑張ってください (2021年2月23日 23時) (レス) id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
オレオ_ッピ推し(プロフ) - 何この話どタイプ……気長に更新を待ちます。( ºωº ) (2020年11月5日 1時) (レス) id: dfcf88994a (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 私も大好きです…更新楽しみにしてます( ^ω^ ) (2020年10月29日 21時) (レス) id: cb54059665 (このIDを非表示/違反報告)
こあら(プロフ) - 何これ好きぃ……………… (2020年10月19日 8時) (レス) id: df8e2a19f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2020年10月9日 19時