クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

色に出でにけり - 8 ページ8

.




知っていた。


とっくにわかっていた。そんなこと。




だから私は河村さんが見れなかった。

だから私は河村さんと話せなかった。

だから私は、山本くんと。




そりゃそうだ。わからないはずがない。


あれだけ直接的に一緒にいたいだなんて言われて気付かない人なんていないでしょう。もうあれ自体が告白みたいなもんだったじゃないですか。



思い返せばそうだった。

あれだけ私をからかってくるのも、かと思えば急に優しくしたりするのも、よく考えれば理由は明白で。




もうちょっと隠す努力とかしたらどうだったんですか、全く。



わかってますよそんなこと。

私もそこまで馬鹿じゃありません。


好きだったことくらい、私。






「……」






……わかっていた、けれど。




こんな、変に心臓が大きく動く、のは。






河村さんはそのまま、何を話すでもなく私を見ていた。


きっと返事が欲しいのだろう。別の話はまたそれからだと、私の右手を掴む手が示している。






───…何を、どう、答えれば良い？



わからなかった。恋バナもそこそこ、少女漫画だって読んだことあるはずの私でも、今この場での正解がわからなくって。




河村さんが好きかどうかなんてわからない。


山本くんに好きかどうかと尋ねられたあの返事でさえ、私には検討もつかなくて。





良い人だ。良い先輩だ。それは間違いない。



……じゃあ、恋愛感情なんて一切ない？







…それならこの、変に大きい心臓の音は。


どう説明しろと、言うのだろう。








「……、わ、」





絞り出した声は変に上擦ったものだった。


唾を飲む。息を吸う。落ち着いて、大丈夫。







「……ッ、わ、かんないんです。…そういうの、」






わからない。

何をどう考えてもわからない。



自分が今何をしたくってどうすべきなのか、今のこの頭じゃ、どうにも。




河村さんはまだ何も言わない。


続きを優しく促すような、そんな目で見られたものだから。







「でも、……でも、何か、」






耐えきれなくなって俯いた。


視界に映る、繋がった手と手。



振り解けそうな力で握られたそれを、振り切って逃げられなかった私、は。



　




「───…嫌いじゃ、ない、です。」






気持ちを表す適当な言葉が、これしか見つからなくって。




熱い。

ひんやりとした廊下の中、頬だけが熱い。




ドキドキする。


息苦しい。



これは一体、どうしたら。






→

しのぶれぬ - 9→←そのからくれない - 7

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す