クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

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side : izw




────今になってどっと疲れが襲ってきたような気がして、椅子の背もたれに体重を預けた。



窓の外を彩るのは街灯と店の灯りだけ。太陽も月も星もうまく見えない中、オフィスに残るのはやはり俺だけである。



…やはり駅まで送り届けてやった方が良かっただろうか。外の暗がりを見て思うのはそんなこと。

駆け出す彼女の勢いを止めたくなかったのはあるけれど、それにしたって夜中に女性を1人で放り出すのは男としてどうなのだろう。


ただでさえ彼女の動向に敏感なヤツは多いわけだし、怒られる程度で済めばいいんだけど。





「……お、」





そう息を吐いた、と同時。机の上の携帯がタイミング良く震え、軽快な音と共に通知を知らせる。



画面に映るは見慣れたメッセージアプリのアイコンで。フルネームで登録された名前の下に記されるのは、これまた簡素なメッセージだ。





《 だめでした 》





俺は、この五文字に詰まった “アイツ” らしさを、とにかく感じてならなくて。





「……」





わざわざこうして連絡をする律儀なところも、俺が彼女に発破をかけたことなんて知らないだろうに、それを察して報告まで入れるところも、全部『らしい』。



そっと目を閉じ、また開くと、操り手をなくした画面がふっと暗くなっている。


また指で触れてやれば、先ほど見たのと同じ画面が再度表示された。メッセージアプリを開き、送られたそれをなぞる。





《 Aちゃんは？ 》





手早く文字を打った。彼女の名が予測変換ですぐに出てきてしまうのが、隠しようもない事実をそこに表して仕方なく。





《 帰りました 》

《 タクシーで 》





なら一安心。見届けたなら彼女が何かに巻き込まれる心配もなかろう。



俺はキーボードを開き、ただ一文字「あ」と打ち、しかし指の動きを止めた。


結局文字を削除する。こういう時のポピュラーな返事がわからないけれど、そもそもこういう状況がありふれているわけもないのだ。



無駄に考えない方がいい。誰にとっても。






《 お疲れ様 》






既読は少し遅れてついた。


返事は、案外すぐに来て。









《 伊沢さんは 》



《 何も伝えなかったんですね 》









────…なんて、こんな時まで俺のことを気にかける言葉を、寄越したものだから。






最後までアイツらしいなと、そう笑うよりも先。




途端に目頭が痛くなって、俺はもう一度だけ、そっと目を閉じたのだ。






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