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オフィスに戻った伊沢さんは、特に何を問いただすわけでもなかった。
片付けも済んでいない部屋の中、アルコールの匂いが残るオフィスらしくないこの空間で2人。
いやに重い空気の漂うこの場に安心感を感じてしまったのは、伊沢さんが私の言葉をただひたすらに待っていてくれたからである。
今日起こったこと、思ったこと、悩んだこと。
それら全てを洗いざらい彼に話し終わったのは、もう終電が過ぎて30分もした後だった。
「………伊沢さんの思う通りでした。」
思い返すのはあの日。伊沢さんと2人で昼食をとった時のこと。
あの時からきっと、伊沢さんはある程度のことを予測していて。
私がこうして岐路に立たされることも、優柔不断に悩まされてうじうじしてしまうことも、全部想定した上であの質問を投げかけたのだ。
数ヶ月越しにやっと意味を理解する。
『可哀想』が示すことと、私を見たあの目の。
「何もできなかったんです。……背中を押してもらったのに。」
────須貝さんとベランダで別れた後、私は終電に乗るべく駅へと向かう集団に合流した。
皆の話は帰路の途中でも絶えやしない。
あれがどうだと楽しげに盛り上がる集団に混ざる元気があるわけもなく、私は最後尾で1人俯いているだけで。
やがて皆の足が赤信号で止まったその時、私はふと顔を上げて。
視線のピントを前方へと合わせた時、“彼” と目が合って。
その瞬間、何故だか何もかもを「ダメだ」と思ってしまったのだ。
何故だか足が動かない。手も口も頭までもが一瞬、全てを動きを止めて。
それから私は確か「忘れ物をした」なんて理由を付けて逃げるようにその場を去って、そして。
「………」
────そして今、こうして編集長の職へと舞い戻った彼に、恥ずかしげもなくそれらを話している。
「……Aちゃんさあ、」
伊沢さんは暫し私の左下あたりを見つめ、数度の瞬きの後にまた私と目を合わせた。
何だか覚えのある視線。
……時間も場所も状況も何もかもが違うけれど、やはり彼との空間で引き合いに出してしまうのはあのファミリーレストランなのだ。
「……ものすごい酷なことを言うようだけどさ。」
その言葉に感じたのは既視感なんてもんじゃない。
記憶が、ざわりと震え出す感覚だ。
「………今1番可哀想なのってさ、好きな子にそんな顔されてる須貝さんだよ。」
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noi - すみません。小説とあまり関係ないかもしれませんが、「リザルート」ってどんな意味なのですか？よく似た響きで「リゾルート」という音楽用語はあるのですが、聞いたことがなかったので気になってしまいました。 (2022年11月27日 20時) (
レス) @page29 id: f637924c1f (このIDを非表示/違反報告)
橘美桜(プロフ) - 初めまして、最近こちらの界隈にはまった者です。290円さんの書かれるお話がとても大好きで何度も何度も読み返しております。ひっそりと『マリア・テレジアへ賛美歌を』のAルート、Bルートお待ちしております、本当に素敵な作品をありがとうございました！ (2021年10月7日 19時) (レス) id: 0e6ceacda8 (このIDを非表示/違反報告)
りべろ(プロフ) - 初めまして…！290円さんの書くお話がとても好きです… 疑問なんですけど、『マリア・テレジアへ賛美歌を』の意味を教えていただきたいです！これからも応援してます！ (2021年7月2日 22時) (レス) id: d1e6d9dde1 (このIDを非表示/違反報告)
春(プロフ) - 初めまして！290円さんの書くお話がとっても好きで何回も読み直してキュンキュンしてました、、。最後のお話、涙が止まらなくて朝から泣きながら読んでます、、。続編楽しみにしてます。これからも応援しています！ (2020年10月11日 6時) (レス) id: b2b76b14bb (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 更新お待ちしておりました！綺麗な世界観がとても好きです。これからも楽しみにしています！ (2020年7月15日 14時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：290円
| 作成日時：2020年3月13日 20時
