クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

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side : sgi




あの自分を偽る術なぞひとつだって知らなかった彼女は、いつの間にやらポーカーフェイスというものを覚えてしまったらしかった。


図星を突いたであろう言葉を並べられようが彼女は俺をしっかりと見据え、その穏やかな表情を崩していなくって。






「………何で、急にそんなこと聞くんですか？」






────けれども、その言葉の返し方だけはあの時と全く同じだったから。

まだまだだなあと思わず口角が緩む。いくら表情を取り繕ったって口が正直じゃ台無しだ、君はいくらか素直すぎる。



雨上がり特有の、湿った水無月の匂いがする。

何だか二次元的だ。まるでフィクションのフィルターがかかったように、この場だけが切り取られて。






「………見てればわかるよ。」





君と俺は、それが全てだった。


退職祝いの場で笑うアイツを見るAちゃんの目は、再び会えるだなんてそんなことを考えちゃいなかった。



これが今生の別れだと、最後だと言うような悲しさを含んでいて。

祝いの場では一際浮いた、もう今にも泣き出しそうな顔をしていたものだから。






「────…だから、こんなとこに逃げてきたんでしょ。」





悲しくて悲しくて、もうアイツの姿なんて見ていられなくて。

だから「参加しづらい」んだろう。主役を素直に祝えず、そのくせ悲しいって一言を押し殺すからあの場にいれない。




知っている。見ていればわかる。

彼女は自分で思っているほど嘘が得意じゃない。俺が相手なら尚更だ。






「………」





Aちゃんは押し黙り、やがて行き場のなくなった視線をそっと俯かせた。


何も言わない。虫の声と遠くの騒ぎ声だけが耳に届き、この場だけ時間が止まっているようにすら感じた。





終電の時間は刻々と迫る。


彼女とアイツのタイムリミットがすぐそこまでやって来ているのに、俺は不思議と焦ってはいなかった。





────何ならもう、このまま終電が過ぎ去るならそれでいい気さえしたのだ。








「………もう、ここで諦めるべきなんですよね。」






そんなことを思えど、沈黙で潰せる時間なぞ精々1分が限界だった。

そっと言葉を紡ぎ始める彼女。悲壮な言葉の節々に俺の胸まで痛んできてしまうのは、一体なぜだろう。







「……新しいところで頑張るあの人の邪魔をしたくないから、諦めるしかないんです。」






静かに発せられたそれは、痛々しいほどに純粋で、真白な恋心の表れだった。






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