最後の休符と、 - 12 ページ34
side : fkr
こんな時に限って赤信号は多いような気がするし、拾おうと思っていたタクシーは尽く乗車中のランプを光らせているものだ。
じわりと不快感を運ぶ初夏の気温が焦りを乗せ、僅かに汗を滲ませる。喉が痛い。別に時間に追われているわけではないけれど、急がずにはいられない。
……何故だろう、直感的に早くAに会わねばと思ったのだ。タイムリミットがある気がして。
そうして走ること十数分。結局タクシーを拾えなかった俺は、人が溢れ返る駅前に到着した。
握り締めた携帯にはロクな通知が来ていない。
幾度かAに掛けた電話は無機質な音声案内にしか繋がらず、メッセージにも既読は付いていない。気付いていないのか、…それとも。
「……」
一度小さく深呼吸。
また顔を出し始めた焦りを喉の奥へと押し戻し、数度瞬きをする。
──仕方がない、怒らせたのは俺だ。
ただ何が彼女を怒らせているのかが俺にはわからなくて、だからこそ今日はっきりとさせてやる。蟠りを無くす。
好きだからこそ関係を修復したいのは、誰だって同じだろ。
「……よし、」
走ったことで上がった心拍数は落ち着いた。
大丈夫、視界は澄んでいる。焦りたくはないけれど、それでもできるだけ早くAと会いたい。いくら疲れていても足を進めなければ。
早く、早く彼女の顔を見たい。
謝りたい。
話したい。
何より、声が聞きたい。
「───でも、」
────そう、願ったからだろうか。
ふと、一言にも満たない一単語が、左の耳を鳴らした。
思わず振り返る。
小さな声だった。人の波に掻き消されず聞こえたのが奇跡であると言えるほど、本当にささやかな声。
一歩、声の方へ足が動いた。
聞き間違えるはずがない。
あのほんの少し低い声は、いやに耳馴染みが良くって、
「───A！」
その顔を見つけたと同時、考えるよりも先に声が出た。自分でも驚くくらいの音量だ。周りの人がちらとこちらを見るのがわかる。
でももう、そんなことを気にしている余裕なんてなかったのだ。
足が自ずと進んだ。Aの目が見開かれ、きゅっと唇を噛む。
泣きそうな顔だ。
どうしてそんな顔をするのだろう。
そうして俺はごった返す人の中、彼女の名をもう一度呼ぼうとして。
「……………え、」
いるはずのない人物の影を、そこに認めたのだ。
→
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noi - すみません。小説とあまり関係ないかもしれませんが、「リザルート」ってどんな意味なのですか？よく似た響きで「リゾルート」という音楽用語はあるのですが、聞いたことがなかったので気になってしまいました。 (2022年11月27日 20時) (
レス) @page29 id: f637924c1f (このIDを非表示/違反報告)
橘美桜(プロフ) - 初めまして、最近こちらの界隈にはまった者です。290円さんの書かれるお話がとても大好きで何度も何度も読み返しております。ひっそりと『マリア・テレジアへ賛美歌を』のAルート、Bルートお待ちしております、本当に素敵な作品をありがとうございました！ (2021年10月7日 19時) (レス) id: 0e6ceacda8 (このIDを非表示/違反報告)
りべろ(プロフ) - 初めまして…！290円さんの書くお話がとても好きです… 疑問なんですけど、『マリア・テレジアへ賛美歌を』の意味を教えていただきたいです！これからも応援してます！ (2021年7月2日 22時) (レス) id: d1e6d9dde1 (このIDを非表示/違反報告)
春(プロフ) - 初めまして！290円さんの書くお話がとっても好きで何回も読み直してキュンキュンしてました、、。最後のお話、涙が止まらなくて朝から泣きながら読んでます、、。続編楽しみにしてます。これからも応援しています！ (2020年10月11日 6時) (レス) id: b2b76b14bb (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 更新お待ちしておりました！綺麗な世界観がとても好きです。これからも楽しみにしています！ (2020年7月15日 14時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：290円
| 作成日時：2020年3月13日 20時
