更に一拍 - 11 ページ33
side : kwmr
目を見開いたAの背後に、福良の姿を見た気がした。
面白いほどの自己中心だ。福良が聞いたら俺に何と言うのだろう、責めるのだろうか。それとも苦笑いでそっと目を逸らすのだろうか。
そんなことわかりきって言葉にしたと言うのに、何故か浮かぶのは福良の姿だ。ヒトとは酷く優柔不断な生き物である。
「………ほんとに、言ってるの？」
───…ああでも、Aの顔を見ると込み上げてくるのはやはり愛おしさだから。
結局そういうことなのだ。どんな前提条件が立ち塞がったとて、どんなに言い訳をしようが好意に間違いなんてなくって。
Aの言葉に小さくうんと返した。
Aは更に目を見開く。何を考えているのだろう、俺にはわからない。
「だ、……って、…私、彼氏いるよ」
「知ってる」
「拳と河村、仲良しじゃん」
「そうだよ」
「何で急にそんな、だって、」
「だっても何もないって」
「でも、」
一拍。不意に流れる無の時間。
「───卒業式の日、ごめんって言ったじゃん」
蝕むように紡がれた言葉に、俺は何かを言えるわけでもない。それが真実だったからだ。
あの日確かにAは俺に好きだと言ったし、間違いなく俺はごめんと言った。覚えている。あの時の光景の何もかもが頭の中にこびり付いて離れない。
そうだよ、ぜんぶ本当だ。
言い逃れも何も通用しない。知っている、けれども。
一歩踏み出した。
Aの丸い目が俺を見ている。
俺だけが、その視界めいっぱいに映っているのだと思ったら。
まあそれも悪くないかと、そう思った。
「……もう、高校の時の俺じゃないよ。」
俺はもう、後悔の念を知っている。
お前はよく高校時代を引き合いに出して語るけれど、俺はこうして別のお前と向き合ってきたのだ。この先後悔なんてできないだろ。
もう何も考えていなかった。
思ったことをそのまんま、この蒸し暑い気温のことさえも忘れて。
「……ッ、」
───その、次の、瞬間だった。
俺だけを映していたはずのAの瞳が俺の僅かに右を捉えて見開かれ、そのまま微動だにしなくなった。
そっと背中から何かが這い寄る感覚。
Aは何も言わない。
目を閉じた。
蒸し暑い。
もういいよ、何でも。
「───A！」
福良の声が、背後から聞こえた、気がした。
→
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noi - すみません。小説とあまり関係ないかもしれませんが、「リザルート」ってどんな意味なのですか？よく似た響きで「リゾルート」という音楽用語はあるのですが、聞いたことがなかったので気になってしまいました。 (2022年11月27日 20時) (
レス) @page29 id: f637924c1f (このIDを非表示/違反報告)
橘美桜(プロフ) - 初めまして、最近こちらの界隈にはまった者です。290円さんの書かれるお話がとても大好きで何度も何度も読み返しております。ひっそりと『マリア・テレジアへ賛美歌を』のAルート、Bルートお待ちしております、本当に素敵な作品をありがとうございました！ (2021年10月7日 19時) (レス) id: 0e6ceacda8 (このIDを非表示/違反報告)
りべろ(プロフ) - 初めまして…！290円さんの書くお話がとても好きです… 疑問なんですけど、『マリア・テレジアへ賛美歌を』の意味を教えていただきたいです！これからも応援してます！ (2021年7月2日 22時) (レス) id: d1e6d9dde1 (このIDを非表示/違反報告)
春(プロフ) - 初めまして！290円さんの書くお話がとっても好きで何回も読み直してキュンキュンしてました、、。最後のお話、涙が止まらなくて朝から泣きながら読んでます、、。続編楽しみにしてます。これからも応援しています！ (2020年10月11日 6時) (レス) id: b2b76b14bb (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 更新お待ちしておりました！綺麗な世界観がとても好きです。これからも楽しみにしています！ (2020年7月15日 14時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：290円
| 作成日時：2020年3月13日 20時
