クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

きみは何とやら - 4 ページ4

side : ymmt




河村さんが目の前のこの──Aちゃんのことを好きだということは、彼女がいう例の日、つまりクリスマスイブの前からとうに知っていた。


というか頻繁にオフィスに来るライターなら大体察していると思う。だって河村さん小学生の男の子みたいな絡み方するし。



彼女は自分を鈍感でもないし察しも悪くないとは言うけれど、僕からしたら圧倒的に鈍感の部類だ。

あれだけ愛のある絡み方をされておいて何もないはずがない。僕含めライターの大半は早く気付いてくっ付けよと思っていたくらいで。





「いや、別に山本くんに迷惑をかけたいとかじゃなくてさ。

　……でもその、頼らないとやっていけないというか。」




……それが一体どうして僕の方へ向かってくるのだろう。


ファミレス内。前々から口にしている不満をぽつりとAちゃんに零すと、彼女は気まずそうに視線を逸らしながらそう言った。




彼女曰く、『河村さんと話すのが気まずくなった』らしい日から1週間。


どういうことが転じてこうなったのか、彼女は以前より増して同期の僕に絡むようになった。



本当に他意はなく、ただ気を紛らわせたいだけらしいのだけど、そんな事情河村さんは知ったこっちゃない。

……で、案の定というか何というか、僕は最近めちゃくちゃ河村さんから睨まれているわけだけど。





「…そもそも何で話せないの？河村さんのこと好きなの？」


「好きじゃないよ！！！」



ひとまずそう尋ねてみれば、食い気味にAちゃんがターブルを叩いて立ち上がり、大声でそう叫ぶ。周りのお客さんがびくりと反応した。


僕とお客さんの視線を一気に受け、Aちゃんは気まずそうに着席。目を泳がせながら水を一口飲んだ。




「……好きじゃないよ？ほんとに」



加えて小さく念まで押してきた。…なんか逆に怪しいよそれ。





「じゃあ話せるでしょ。何が気まずいの？河村さんがAちゃんのこと好きなだけじゃん」


「ぶッッふ！！ちょっとやめてよ大きい声でそういうこと言わないで！！！」


「うわあちょっと水吹かないでよ！」


「誰のせいだと思ってんの！！！」




……と、そんな会話をランチ時で人が多い中繰り広げたものだから、僕たちは当然後で店員さんに「店内ではお静かに」と咎められた。


Aちゃんは「山本くんは私にだけ優しくない」と嘆くけれど、それも愛のある絡みだと思って許容してほしいものである。






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