編集長の吐露 - 3 ページ6
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俺の好きな人は仕事仲間の幼なじみだった。
確かその仕事仲間の忘れ物を届けにオフィスに来たのが最初。笑顔が素敵な子だと思った。
共通の知り合い、つまり川上の話題で俺たちは多少盛り上がり、ノリで連絡先まで交換して。
やがて帰って来た川上に忘れ物を届け、帰路につく彼女の背中を見て『寂しい』と思った時からおかしかったんだ。
週に2度くらいのペースでオフィスに来る彼女も、毎日の楽しみになっているメッセージのやり取りも、気が付けば全てが好きだった。
『伊沢さん』と俺を呼ぶ声はまるで麻薬だ。ずっと聞いていたくなる。
「川上」
距離を縮めたい。
でもどうしたらいいか見当がつかない。
そんな時、俺は決まって幼なじみである川上に相談する。的確なアドバイスをくれるし、何より彼女についてよく知っているからだ。
「何ですか」
パソコンの画面から目を離した川上がちらと俺を見やる。「あぁまたか」って表情を隠そうともしていない。
「Aちゃんって次いつオフィス来んの?」
「…それ、伊沢さんがLINEで聞けばよくないですか?」
「聞けねーよ!意識してるみてーじゃん!」
「実際意識してるじゃないですか」
…まあそうだけど。何も言い返せず黙りこくった俺を見て、川上は溜息を吐く。
そしてパソコンの画面にまた目をやり、キーボードを叩きながら言うのだ。「明日来ますよ」ってそれだけ。
「マジ?サンキュー川上!」
「どういたしまして」
何だかんだ言いながらこうしてアドバイスをくれる存在っていうのは恋愛において大切だ。
今から明日が待ちきれず、弾む心のまま俺もキーボードを叩きだす。今ならいい記事が書ける気すらしてきた。
と、そんな時。
「伊沢」
福良さんが席を立ち、何とも言えない表情で俺に話しかける。
どちらかといえば険しい顔。温厚で温和な普段の姿とは似ても似つかない表情。
「…何?」
そう尋ね返したけれど、何となく何を言われるかわかっている気がして。
「……」
「どうしたの、福良さん」
福良さんは優しいからきっと見過ごせないのだろう。可哀想で仕方なくて、悲しいのだ。
射抜くような瞳が俺を刺す。
あー怖。そんなことを思って気を紛らわせ、口角を上げる。
「わかってるならやめてあげたら?」
「……」
一方で福良さんはぴくりとも表情を動かさない。
ふざけることのできない空気感。俺は口角を下げざるを得なかった。
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時