考えられるからこその面倒もあるわけで - 3 ページ45
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ふと振り返ると、須貝さんに想いを見抜かれたあの日が本当の始まりだったのかもしれない。
あれから1ヶ月の月日が経っていた。
特段何も変わらず、いつも通りの1ヶ月。強いて変わったことと言えば。
「こんにちは、川上さん!」
「…お、今日は遅いね。お疲れ」
どもることなく川上さんと話せるようになったことくらい。些細だし進展があったかと言われればそうでないのだけど、私からしたらすごいことだ。
昼の2時を回った頃。少し遅れてオフィスを訪れ、1ヶ月前と変わらぬ定位置に腰を下ろす。早速パソコンを開いた。
「遅かったねAちゃん。学校?」
「…あ、福良さんこんにちは!レポートだけ出しに行っちゃってました」
1ヶ月前は隣に座っていた須貝さんは、少し前から斜め前の席に移動した。
代わりに隣に座るようになったのは福良さんだ。福良さんもあまり話したことはなかったのだけど、とっても気さくな良い人で。
「Aちゃん、最近川上と仲良いよね。前からそんな感じだったっけ?」
先ほどのやり取りを見ていたのだろうか。福良さんは軽く首を傾げた。
…仲が良い、か。
周りからそんなことを言われるまで親交が深まったのかと思うとちょっと嬉しいな。
「ああいや、前は全くお話ししてなかったんですけど…。須貝さんがお手伝いしてくれて」
と。
特別変なことを言ったわけではないのに、福良さんは目を僅かに見開いた。そんなに私と須貝さんの仲が良いのが意外だろうか。
…まあ確かにちょっと、今まで仲良くなってきたタイプとは違うけど。須貝さん明るいし。
暫し福良さんはそのまま固まってしまった。私も何を話すでもなく、不自然な数秒の間。
流石に何か口を出すべきだろうかと私が悩み始めたその瞬間、一転福良さんはそっと微笑んで。
「そっか」
「…?」
何の そっか だろう。何だか会話が噛み合っていないような、そんな不自然さ。
反応に困り、曖昧に笑った。くすりと笑い声を零す福良さん。
「…ねえ、Aちゃんって川上のこと好きなの?」
「……え゛、」
デジャブを感じた。
ああこれは、1ヶ月前のあの時。須貝さんに想いを見抜かれたその日。
「うーん、やっぱりそっか。今まで気付かなかったなあ」
「え、あ、…え?」
「そうだね、そうだよね。優しいなあ」
福良さんは1人でそううんうんと頷いて。
また一度「優しいなあ」と口にして、それ以降何も教えてくれなかった。
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時