n回目の一心不乱〈 QK 〉

がんばった神様 - 3 ページ42

side : fkr




「……」

「……」

「…河村さん、今日はどうしたの？」


伊沢の言葉にゆっくりと首を振る。それだけで察してくれたらしい伊沢は口を閉じてくれた。



夜も更け、オフィスにいる人物もそれなりに少なくなってきた頃。自身の机に突っ伏し、溜息と唸り声を上げる男が1人。名は河村。


…感じるのは圧倒的なデジャヴ。奇しくも現在オフィス内にいるのは俺と河村と伊沢の3人で、あの時と同じメンバーだ。



「……」

「…えーっと…、…まあ、タイミングが悪かったかな」



何故こんなことになっているのかと言えば、その理由はやっぱり1つ。大体が察する通り色恋沙汰だ。

ライターの大半が気付いている通り、河村はAちゃんという女性ライターに想いを寄せている。


…で、この冬の時期。河村は珍しく真面目な顔でAちゃんをクリスマスのデートに誘ったのだけど。



「友達ともう予定入れちゃったって…」



結果はこの通り。23日というギリギリの日付に誘ったこともあってか、友達の多いAちゃんはすでに予定が入っていたらしい。

俺もその様子は見ていたけれど、Aちゃんの反応から見るに河村は結構頑張ったのだろう。それだけに可哀想だ。


その言葉で状況を察したらしい伊沢も哀れみの目である。河村の気持ちを知っているだけに何だかね。



「…まあでも、収穫なしってわけじゃないんじゃない？言うことは言ったんだし」



河村はちらと顔を上げ、俺に恨みがましい目を向けた。…まあ今回の直接的な原因は俺と言われれば俺だしね。

そのまま何も言わない河村は、再度机にガツンと頭をぶつけて突っ伏す。溜息が聞こえた。



「いや、割と本気だよ？フォローとか気遣ってるとかでもなくさ」


そう付け足したけれど、河村はもう顔を上げなかった。相当ショックらしい。

本当に心当たりがあって言ったのに。これじゃ暫くはこの調子だろう。




「……」




……いや、でも。


誘われた直後のAちゃんのあの反応。
河村が去った後、ほんのり頬を赤くしていた彼女の表情。


いつもボケッとしているのが更にぼんやりとしていたのを見るに、河村の勇気は無駄じゃなかった。僅かでも、きっと意識されている。

彼奴はがんばった。それが身を結び、きっとこれから進展していく。河村は彼女を幸せにしてやれる。


　


「……はー…、もう仕事やる気ねえよ…」



……まあ、そんなこと未だにいじけている此奴には内緒にしておくんだけど。






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