こうかは ばつぐんだ! - ymmt ページ34
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「…あれ?」
その声が聞こえた瞬間、俺の斜向かいにいたAちゃんの表情が一気に暗くなった。
ちらと声のした方向を見やる。案の定そこにいた山本は、何が楽しいんだかにっこりと笑っていて。
「もういたんだ。早いね、Aちゃん」
とある日のオフィス、朝10時。
何とか山本の声に無視を決め込んでパソコンとにらめっこをしていたAちゃんは、名前を呼ばれて表情をより一層曇らせた。
*
「おはよう、Aちゃん」
山本がオフィスに入って来てから数分が経過した。
Aちゃんの机の横に陣取った山本は、広げたパソコンそっちのけで彼女にそう笑いかける。…何だか異様な光景だ。
「…オハヨウゴザイマス」
「あは、なんで敬語なの?タメ口で良いって言ったのに」
あからさまに嫌そうな表情を浮かべるAちゃんとは対照的に、山本はびっくりするほど笑顔で。
「…よくやりますよねえ。山本さんも」
俺の隣にいたこうちゃんがそう声を潜めて言った。
「それくらい好きなんでしょ、Aちゃんのこと」
同じく声を潜めて言葉を返す。こうちゃんは曖昧に頷いた。
──そう、端的に言えば、山本はAちゃんのことが好きだった。それも結構重度に。
……いや、本人の口からちゃんと好きだと聞いたわけじゃないんだけど、言われなくても一目瞭然で。
「Aちゃん、今日お昼暇?」
「…。いや、予定入ってる」
「え、何?誰と?」
「友達と」
…とまあ、こういう風に。
山本は毎日毎日、暇さえあればAちゃんにこうして絡みに行っている。これを好意と呼ばずして何と呼ぶのだろう。
Aちゃんも最初の方はちゃんと相手をしていたのだけど、最近それにも疲れたらしい。段々と山本への対応が雑になってきている。
「友達って誰?僕が知ってる人?」
「…何でそれを山本に言う必要があるの?」
「僕が知りたいからだよ」
Aちゃんが思いきり山本から目を逸らした。それを追うように目を合わせようと覗き込む山本。
「今日もやってんなあ」と伊沢が呟く。…そう、このオフィスでは、この光景がもはや当たり前なのだ。
「…若いって良いなあ」
そう口にすれば、助けを求めるような視線がAちゃんから送られて来た。気付かないふりをしておこう。
いくら雑に対応されても笑顔な山本は、それほどAちゃんのことが好きなのだろう。俺はそんな山本を密かに応援していた。
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時