横恋慕の通せんぼ - izw ページ30
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「……あー、ダメっぽいですね」
「マジ?電車止まってる?」
携帯を見ながら苦い顔をしたAちゃんは、脱力したように溜息を吐いて小さく頷いた。
窓の外を見やる。一面の雪景色が広がるそれ。……そりゃ電車も止まるよなあ。
とある1月の日のオフィス。
俺とAちゃんの2人だけしかいない室内にて。
今日は正月休みのうちの1日である。俺もAちゃんも仕事を残していなければ、数少ないオフの日を満喫していたはずなのだけど。
まあ別にそれは良い。仕事はともかくAちゃんと一緒なのは喜ばしいことだし。……問題はここからだ。
天気予報によれば、今日は今年イチの大寒波らしい。窓の外にはもう景色が見えないほど雪が降っている。
それだけならともかく、雪のせいで電車が止まってしまったのだ。1番まずいのはこれ。
「どうしましょ、歩いて帰れるかなあ……」
電車が止まれば困る人も勿論いる。その1人が、今目の前にいる電車通勤のAちゃんだ。
この分じゃ明日の朝まで電車は復旧しなさそうだし、都心だからタクシーの利用者もそれなりにいるだろう。帰る頃にはきっと深夜だ。
「迎えに来てくれるかなあ……」
Aちゃんが呟いた。携帯の画面を憂鬱そうに見つめ、また小さく溜息を吐く。
彼女には彼氏がいる。
俺の知らない年上の彼氏。ちょうど1年くらい前に付き合い始め、今でも幸せの絶頂にいる素敵なカップルだ。
Aちゃんの指が文字を打つ。何を打っているのかは分からないけど、車を持つ彼氏に迎えに来てくれないかと頼んでいるのだろう。
「Aちゃん」
ぼんやりとした頭のまま名を呼んだ。
携帯の操作をやめた彼女がこちらを向き、僅かに首を傾げて。
「……ひとつ提案なんだけどさ。
オフィス泊まってかね?彼氏もこんな時間に大変だろうし、」
───なんて彼氏持ちに下心しかないお誘いをしてしまうのは、単なる親切心か、それとも別の何かなのか。
Aちゃんは一瞬驚いた顔をして、また携帯の画面を見つめた。
瞬き。小さく息を吸い、また俺を見る。綺麗な笑顔が浮かんで。
「えっと、……ご迷惑じゃないなら、よろしくお願いします」
男と2人だって言うのに、全く疑うそぶりも見せず感謝するAちゃん。相変わらず無垢で純真で、むしろほんの少し心配になった。
1月の夜、オフィスに2人。
何も起こらないことなんてあるのかって、ぼんやりそう考えたりして。
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時