今夜限りのノクターン - 3 ページ24
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話していないこと。
抱えたまま10数年を過ごし、消化しきれなくなったどうしようもないわだかまり。
心の中で燻り続ける、この気持ちは。
「……俺な、お前に話してへんことがある」
Aの顔が分かりやすく不安に染められ、張り詰めた空気が流れる。きっと何か悪い報告を想定しているのだろう、Aは分かりやすいから。
俺が言おうとしているのは、きっとAをもっと不安にさせることだ。
でも、きっとこれを逃したらもう何も言えなくなる。だから伊沢さんの胸を借りるつもりで。
「好きや」
過去形なんかにできなかった。
今でも好きだ。 許されるのなら手を引いて連れ出してしまいたいくらい、俺は。
「ずっと。Aのことが」
ずっとずっと、好きだった。
愛していた。ずっとAだけを見ていた。
「…別に、だからどうしろとは言わん。俺はお前が幸せならそれでええから。
…ただ、今言わんともう言えんと思った。それだけや」
案の定、Aは訳がわからないといった顔をする。
伝えた。もう後戻りはできない。後はすっぱりと振られ、伊沢さんとAを見守るだけ。
──なのは、分かっている、けど。
やっぱりと言うか、なんと言うか。
分かっていてもまだ、俺はAのことが好きで。
付いているか否かで言えば、間違いなく気持ちにケリは付いていない。未練がましく諦めきれていない。
……じゃあもう、俺はどうしたら良いんだ。
「…ずっと、って、」
重々しく、何だか泣きそうなAが声を振り絞る。胸が痛くなった。
静かに耳を傾け、次の言葉を待つ。秒針の音も聞こえない。心臓の音が大きすぎるからだ。
「ずっとって、……いつから?」
尋ねられたのはそんなこと。
静かに目を閉じる。まだ一向に諦めがつかないこの気持ちに、ケリが付く想像をした。
「ずっと。
…お前と出会った時から、ずっと」
言葉が終わる前に泣き出したのはAだった。
嗚咽と鼻を啜る音に思わず目を開く。何を思って泣いているのかも何故泣いているのかも分からなくて、俺は目を見開いた。
化粧が崩れるのも気にしないまま、Aは痛々しく息を吸う。辛そうなその姿を見ていられなくて、手を伸ばしかけて。
「……おそいよ」
そんなことを、言うものだから。
俺は、その場に固まるしかなかったのだ。
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時