追い討ちのキャロル - kwkm ページ22
※『キューピッド』シリーズの続きです
───────
特に何の変哲も無い平日の夜だった。
仕事を終え、家に帰り、特に見たい番組も無いのにテレビを付ける。そんな平日の夜。…だったはず、なのだけど。
ピンポーン
ふと、インターフォンが鳴る。
夜中だと言うのに誰が鳴らしているのだとカメラを覗き、驚いた。よく見知った人物が立っていたからだ。
「……A?」
A。俺の幼なじみ。
先日交際中の彼氏と3年記念日を迎え、幸せの絶頂にいる彼女が、いつもとは違うしっかりとした格好でそこに立っていた。
*
「ごめんね、夜中に突然」
「いや、別にええけど。…どうしたん?」
慌てて中に入れると、Aはそう笑ってソファに腰掛けた。
いや、別にそこら辺は問題ないんだけど。それより重要なのは何でこいつがここにいるんだってことだ。
いつもよりしっかりとした格好。
何だかそわそわしている様子。
しきりにスカートの裾をいじり、ちらちらこっちを伺っているところとか。
いつもと違うところがありすぎてこっちが変な気分だ。多少心配したのだけど、別に弱っている様子でも無いし。
Aがこうして夜中に訪ねて来るってのは今までに何度かあったことである。
そういった時Aは大抵泣いていて、理由を尋ねると不安なことがあって耐えきれず俺を訪ねたのだと言う。
今回はその前例に当てはまる様子でも無い。
だからこそ、何だか不安だった。
「あのね、ちょっと話したいことがあって」
そんな前置き。
『話したいこと』。何年経ってもこいつからのこのワードは不安を煽って来て仕方がない。
パッと思い浮かんだのは伊沢さんの顔。
3年の期間をカップルとして共にしている2人は、いつ見たって幸せそうに笑っていた。……もうあれから3年か。
「…その、拓朗には1番に話すべきだと思って」
俺が今でもAと伊沢さんに早く別れろと思っているのは、紛れもない事実だ。
面倒なことに、恋心っていうのはすぐに忘れられるものじゃない。つまり俺はまだAの方が好きで。
だからこそ。それ故に。
彼女の口から話されるのを、期待してしまうのだ。
『 別れることになった 』って、そんな話をちょっとだけ。
散々目を泳がせていたAと目が合った。
逸らされることはなく、Aは一度深呼吸。決心したかのようにひとつ頷く。
「あのね、結婚することになったの」
→
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時