n回目の一心不乱〈 QK 〉

兄は辞めれる？ - 3 ページ12

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「聞いて、おにいちゃん」



Aが顔を近付けてくる。より一層香る、アルコールの匂い。



「あのね、」


内緒話をしているのだろう。耳に口元を寄せ、周りには誰もいないと言うのにAは囁き声で。




「私、大人の階段のぼっちゃった」



ふふ、ひひ、へへ。

柔らかな笑いを浮かべ、くすくすと。


アルコールに酔わされたAが、至近距離にいるのに何故だか歪んで見えて。



「……え？」



訳が分からなかった。

まともに彼氏もできたことのないAが、今何を言った？




「あのね、1個上の先輩がね。車で家まで送ってくれてね。

　さっきね、車降りる時にこーやって顔を近付けてきてね、」



僕は処理が追いついていないと言うのに、Aは『 大人の階段 』を実演で説明し始める。


車？
先輩？

降りる、時？


こうやって、と僕に顔を近付けるAを呆然と眺めることしかできない。…今、何を言っている？




「先輩がね、それで……ちゅー、って」




喉が突き刺された様に、言葉が出なかった。



だと言うのに、脳は冷静に処理を始める。


1個上。俺と同い年の奴が、Aを。

車を運転したというなら素面だったはずだ。酒の勢いでもなく、酔ったAに、そいつは。





「ファーストキス、しちゃった。ふふ、」




赤い顔で笑うA。

至近距離に感じる少し熱い体温。



その一言がドンと大きく背を押して、


アルコールの匂いが、僕を酔わせた。






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