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「辛いとか、思いませんか」
いつだったか、お互いを悟ってしまった同業者から言われた言葉だった。
「うちらのしてることって、ヤバイやつじゃないっすか。
時々、不安になるんですよね」
彼女はこの『仕事』を始めてからそう日は経っていないらしかった。
辛いなんて、思わない。
こんなのだって、私の生活を支える大切なことなんだ。
確かそんなことを彼女に言った。
そして私は気づいてしまった。
「ターゲットのこと、好きになっちゃったんだ」
彼女は目を見開いて「ちがっ」と口を開き、やがて諦めたように俯いた。
「近付いてるうちに、彼と居ることが本当に楽しくなっちゃって。
でもうち、雇われてる立場だしまだ新人だから結果出さないといけないし……」
詐欺師に『雇う』なんて少しおかしな話だが、確かにこの業界は上下関係が激しい。
現に私はそれが嫌で、
収入は少なくなるけれど単独で『仕事』をするようになった。
「私は、
経験はなによりの宝だと思うよ。
きっと何をしてもこれからに繋がる」
まだ子供らしさの抜けない彼女の頭に手を置いて、私は目を合わせて笑顔を見せてやった。
『大切なものを守りな』
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確か海南ちゃんといった気がする。今私が彼女に会ったら、同じことを言えるだろうか。
あれからそう月日は経ってないはずだった。
でも一年を通して仕事をしているためか得るものも多くて、
恋なんてしてられないことに気付いたのは、肌と心がボロボロになってからだった。
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南 - 続き楽しみです。更新頑張ってください。 (2017年4月20日 11時) (レス) id: bb46e3e750 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mチャワン:| | 作成日時:2017年4月19日 21時