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会話の中ではっきりと聞き取れたのはK2さんの「神に愛される必要がある」という言葉。
たぶん、特定の誰かに言ったつもりは無かったはずだ。この場にいる五人に、私たちを讃える言葉として用いたのだろう。
彼の言わんとしていることは確かにその通りだと思う。山の天候はもちろん、言ってしまえば落石や雪崩れも完全に運任せな部分がある。私たちがどれだけ経験や技術を積もうと、抗えない超自然的な力が作用するのだ。私たちに出来ることといえば願うことのみ。その懇願が届いたとき、私たちは頂上に立てるのだ。
正直、私は並大抵の人より愛されているようだ。それは何日か前に言葉を交わした梓さんの口ぶりや、登山の度に周りから頂く「寵愛を受けている」という評価からも明白だ。
登山家からしたら名誉なことなのであろう。山の神と相思相愛だなんて。だって、それは直々に山に踏み入れることを許されたのと同等の価値がある。自分の登山を、他でもない山から評価を得られるのだ。登山家が羨まないわけがないだろう。
……しかし、愛されるのは辛いことだ。
例えば、無意識のうちに山の神の逆鱗に触れてしまった人と登山をすればどうなる？ その人は雪崩れに巻き込まれて行方不明となってしまった。知らず知らずのうちに山に嫌われた人は？ 不自然に足場が崩れ、大怪我を負った。
目の前で何人ものザイルパートナーが怪我を負い、病気を発症し、亡くなっていくさまをこの目で見て、肌で感じ、無力さに呆然とするしか無かった。
人々はこんな私を恐ろしいと避けるようになった。私は無事なのに、私の周りの人たちが必ず怪我をすると。彼女と登山をすればただでは済まないと。
不意に蘇る苦い感情にそっと目を伏せた。これは私がどう足掻こうと変わるものでもないし、体質的なものならなおさら諦めるしかない。
だから、皆さんのことが非常に心配なのだ。ここまで誰一人として欠けていないのが奇跡なくらいなのである。
私が思いを馳せている間に、いつの間にか通信は終了しており、ふわふわとした朗らかで柔らかな空気が辺りを包んでいた。
写真を撮ったり、景色を心に刻んだりして落ち着いた頃。そろそろ下山を開始しようかという時になってグラリと足元が揺れた。
ギシギシと音を立てて山が鳴動し、気づけばガスも上がってきている。
……何か変だ。早く下山した方がいいかもしれない。
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夜隠(プロフ) - 銀さん» たくさんの感想ありがとうございます！ここまで来たからには私も良い景色を見せてあげたいものです…完結まで間近ですが、最後まで気を抜かずに書いていきます。もう少々お付き合い頂けると嬉しいです！ (2020年7月13日 5時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
銀 - 何の景色を見ることになるのが楽しみです。長々とすみませんでした…だけど言いたかった…!完結まで後少し。ずっと応援し続けます!! (2020年6月28日 21時) (レス) id: 321732a1a4 (このIDを非表示/違反報告)
銀 - 夜隠さん» 今回のリーダーと夢主さんの話辛すぎて号泣しました…第一次登山隊との別れのところ(Polarにて)や3人を見つけたとき(Night後半および今回はじめ)でも号泣しましたが、最後に見つかっただけあって、ここまでの思いが溢れてきましたね…最後、第二次登山隊と夢主さんが (2020年6月28日 21時) (レス) id: 321732a1a4 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 木ノ葉さん» 応援ありがとうございます！やっと完結が見えてきました……もう少しおつきあいいただけると嬉しいです！ (2020年6月28日 5時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - Contrastさん» 第一次登山隊の話は山場でもあるので凝ったかいがありました……！褒めてくださって嬉しいです、ありがとうございます！ (2020年6月28日 5時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜隠 | 作成日時：2020年6月21日 7時
