ページ ページ14
考え事をしながら歩いていれば、いつの間にか全然違う方向へ来ていたようだった。
おかしい、ついさっき見つけた氷河の方へちゃんと歩いていたはずなのに。
遠くにぽつんと淡く灯る光を目印に戻ろうとするも、ふと髪を引かれた気がして後ろを振り向く。
後ろにはゾンビみたいな人間がいる……訳もなく、ただ大きな黒い壁が広がっているだけだった。これがあの大黒壁……グレード・ブラック・ウォールであるのは間違いない。堂々とした風貌や漠然と立ち塞がる壁に思わず身震いをする。これは断じて恐怖からではない。高揚からだ。
吸い寄せられるようにしてその壁へ寄り、ゆっくりと岩肌を撫でる。ざらりと伝わる感触に固く阻まれた手の平。確かめるようにしっとりと撫で付けていれば、同時に視線も下へと下がる。すると不自然に踏み荒らされた、いや、踏み固められた地面が嫌でも目についた。
偶然見つけた痕跡に驚きのあまり引きつった笑いが漏れた。全美さんの件といい、トントンさんとシャークんの件といい、いくら後を追いながら進んでいると言っても、あまりにも第一次登山隊の痕跡が見つかりすぎではないだろうか。この広大な山脈でちっぽけな痕跡など、本当は見つかるのは奇跡レベルであったはずだ。それが立て続けに起こるなんて。
何かを引きずったような道が、ちょうど岩の影まで伸びている。吹雪くこの気候でいても、消えることなく一本道を作るそこに足を伸ばした。
* * *
どこで間違えたのだろう。
その問いに誰が見ても、聞いても百点と評価されるような答えを持ち合わせていない。
だって候補がありすぎるのだ。この道を辿ろうとしたとき？ ぼうっとしていて、来るべき方向を間違えたとき？ もしかしたら、狂気山脈へのアタックを決心したときかもしれない。
……もしくは、彼と出会ったとき、とか。
覗き込んだ窪みには死んでいるクライマーの遺体があった。
履いているアイゼンは何故かボロボロに腐食しており、例に漏れず皮膚は半ば溶けかけている。見覚えのありすぎるハーネス＿＿クライミングの際に用いる安全ベルト＿＿に結び付けられたロープは先端が切れており、ザイルパートナーはその周囲にはいない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 119人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜隠(プロフ) - 銀さん» たくさんの感想ありがとうございます！ここまで来たからには私も良い景色を見せてあげたいものです…完結まで間近ですが、最後まで気を抜かずに書いていきます。もう少々お付き合い頂けると嬉しいです！ (2020年7月13日 5時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
銀 - 何の景色を見ることになるのが楽しみです。長々とすみませんでした…だけど言いたかった…!完結まで後少し。ずっと応援し続けます!! (2020年6月28日 21時) (レス) id: 321732a1a4 (このIDを非表示/違反報告)
銀 - 夜隠さん» 今回のリーダーと夢主さんの話辛すぎて号泣しました…第一次登山隊との別れのところ(Polarにて)や3人を見つけたとき(Night後半および今回はじめ)でも号泣しましたが、最後に見つかっただけあって、ここまでの思いが溢れてきましたね…最後、第二次登山隊と夢主さんが (2020年6月28日 21時) (レス) id: 321732a1a4 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 木ノ葉さん» 応援ありがとうございます！やっと完結が見えてきました……もう少しおつきあいいただけると嬉しいです！ (2020年6月28日 5時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - Contrastさん» 第一次登山隊の話は山場でもあるので凝ったかいがありました……！褒めてくださって嬉しいです、ありがとうございます！ (2020年6月28日 5時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夜隠 | 作成日時：2020年6月21日 7時
