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『ひ、っ！！』
最悪だ。最悪の目覚めだ。
冷や汗が背を伝う。じっとりと上気した体とは裏腹に手は小刻みに震えている。吐き出す息はひどく熱く、全力疾走した直後のように乱れていた。深呼吸しようとしても歯が上手く噛み合わず、ガチガチと音が鳴るだけであり、更に私を追い詰めてゆく。
言いようの無い恐怖と寒気に一人耐える。重石を体にくくりつけて海に放り出された気分だ。上手く吸えない息と、極めて緩慢な動きしか出来ない四肢。満足に酸素を取り入れられなくて、暗き視界に呑まれてゆく。
いっそのこと気絶でもできればいいものを。数々の死に際をくぐり抜けてしまっている私は、だてのことでは気を失えるはずがない。だってこれは明らかに夢だって理解しているから。
永遠にこの苦しみが続くんじゃないかと思ったその時、突然ぽっと蝋燭が灯り、薄影の中で青白い顔をした梓さんが浮かび上がった。
「A……！」
『あずさ、さん』
「A、A、顔色悪い。ちょっとまってて、ココア淹れてくるわ」
『あずささんも、かおいろ、わるい……』
「あなた、今、自分がどれくらいひどい顔してるか分かる？ ……今にも死にそうな顔してるわよ」
比喩と分かっていても、死にそうな顔なんて縁起でもない。反論しようとした私に、頭からすっぽりとウェアを被せられる。視界を奪われてしまえば、おとなしくするしかない。結局この腕では払い落とすことも叶わないのだ。
暫くそのままの体勢でいれば、ごそごそとした物音が消えた。彼女が外へ行ってしまったのだろう。
一人になれば孤独さが増す。どうしてこんなに心臓が押し潰されたように痛いのだろう。肺を握りしめられたかのように苦しい。焼かれた鉄を直接肌に押し当てられたかのように体が熱い。低体温症になったかのように震えが止まらない。
虹の谷は見慣れている。……見慣れてるのだ。
8000m級の山はほぼ全て制覇しているため、何度も側を通ったことがあるし、骸と成り果てたご遺体だって何度も見ている。氷壁の下でひしゃげたものや、鳥や獣につつかれたもの、苦悶に満ちた顔のもの、どこか満足げな表情のもの……とにかく人より「死」への耐性はあるはずなのだ。それで堪えていれば上へは登れていない。
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夜隠(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます！この小説を見つけてくださった事がとても嬉しいです。応援ありがとうございます、更新の励みになります！ (2020年6月21日 7時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 好きです！（突然の告白）何故今まで読んでいなかったのか…と後悔しましたwまぁとにかく好きです！更新頑張ってください！ (2020年6月18日 21時) (レス) id: 1840efb8a6 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - コンソメさん» お返事遅れて申し訳ないです。私も下山諦めましたね…褒めて下さりありがとうございます！ご期待に添えるよう精進して参ります。 (2020年6月11日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
コンソメ(プロフ) - あっ、やばい。下山は諦めたけどもう、うん(語彙力消失)僕が書いてるのとは比べ物にならない素晴らしさですね。こんな良い話を書いてくれてありがとうございます。応援してます！ (2020年6月7日 11時) (レス) id: 1d8435ec80 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 銀さん» お待たせしました……！ここまで来れたのも読んで下さる方々のおかげです。ありがとうございます。銀さんも体調にお気をつけ下さい。 (2020年5月30日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜隠 | 作成日時：2020年5月24日 5時
