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絶望に歪められた口元に私は声の許すかぎり叫んだ。どうして、こんなときに、高山病なんか！
荒れ狂う内心とは裏腹に、無情にも滑落は止まらない。目測で12、3mほど落ちた彼は、ようやくそこで岩によって止まった。ここまでの流れは本当に刹那的な間に起こったアクシデントだ。弘中さんの真後ろにいた私はともかく、後方の三人が理解が追い付いていなくても不思議ではない。
「え、今、弘中さん、大丈夫か！？」
「っあ、あ……」
「だ、大丈夫か睦月くん！」
『ゆっくり、ゆっくり起き上がって下さい！ 骨は？』
「なんとか、打撲、骨は、大丈夫、だと」
「本当に、大丈夫かよ」
よろよろと左足を引きずりながら戻ってくる彼を囲んで口々に心配の声をかける。梓さんがいなくなった今、医療の心得があるのは弘中さん本人くらいだ。彼の怪我に対して、手も足も出ないのがもどかしい。
『ごめ、ごめんなさ……私、わたし』
「あなたのせいではありませんよ、Aさん。完全に僕の不注意です」
『でも、手、離しちゃって』
「高山病の影響ですよね、大丈夫です。わかってます。あなたは何も悪くない……だからそんな顔しないで」
藍色の手袋がはめられた指が優しく頭に触れた。
おでこをコツンとつつかれ、そのままわしゃわしゃと頭を撫でられる。遠慮無いその撫で方に、結っていた髪が緩む。ぼさぼさになった私をみて、満足げに、でもどこか哀愁漂う彼は笑った。
「湿っぽい顔、しないでください。さっきの滑落、正直、諦めてました。僕はここでおしまいなんだって。でも、Aさんが手を伸ばしてくれたのが見えたから、粘ろうって思えたんです。まぁ、見ての通り無事ではありませんでしたが、こうやって生きてます。だから寧ろAさんは僕の命の恩人ですよ」
ありがとうございます、と締め括られ私は視線を落とすしかない。彼の言葉を素直に受け取るのが良いのだろうが、私は可愛いげの無い女だ。いつまでも引きずる私の態度が不満だったのか「おいおい、照れてんのか〜？」と調子良い声と共に払々さんが肩を組んでくる。絡まれる私とは対照的に弘中さんの周りには晴さんとコージーさんが集まっていた。
ふと弘中さんと目が合う。お互いに数秒間見つめあったのち、目尻に涙を溜めたコバルトブルーの瞳がきゅっと細められた。
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夜隠(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます！この小説を見つけてくださった事がとても嬉しいです。応援ありがとうございます、更新の励みになります！ (2020年6月21日 7時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 好きです！（突然の告白）何故今まで読んでいなかったのか…と後悔しましたwまぁとにかく好きです！更新頑張ってください！ (2020年6月18日 21時) (レス) id: 1840efb8a6 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - コンソメさん» お返事遅れて申し訳ないです。私も下山諦めましたね…褒めて下さりありがとうございます！ご期待に添えるよう精進して参ります。 (2020年6月11日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
コンソメ(プロフ) - あっ、やばい。下山は諦めたけどもう、うん(語彙力消失)僕が書いてるのとは比べ物にならない素晴らしさですね。こんな良い話を書いてくれてありがとうございます。応援してます！ (2020年6月7日 11時) (レス) id: 1d8435ec80 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 銀さん» お待たせしました……！ここまで来れたのも読んで下さる方々のおかげです。ありがとうございます。銀さんも体調にお気をつけ下さい。 (2020年5月30日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜隠 | 作成日時：2020年5月24日 5時
