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生きる意味、生きる道標を言い残した彼女の後ろ姿は嫌に小さく見えた。
* * *
梓さんとK2さんが離脱して数時間後。はらはらと降っていた粉雪はいつのまにか水分を多く含み、ウェアの表面を水の玉となって滑り落ちていく。身動きが取りづらくなったことに加え、心無しか風が強くなってきた気もする。
心配なのは天候だけで、その他はなんとも無いように語っているが、実はお二人と別れてからここへ来るまでの道中ではブロッケンに囲まれるという奇妙なハプニングがあった。
右を向いてもブロッケン、左を向いてもブロッケン、前方にブロッケン、後ろには晴さん……目を点にした晴さんの顔は、あの状況でなければ笑っていたであろう。しっかりと彼の背後にブロッケンがいなければ良かったのだが。
全方位にいる影の存在であるはずのブロッケンが笑い、散っていったとき、私の脳は状況を正しく理解することを止めたらしい。湧き出た感想は『そんなこともあるよね』という慣れに似た諦めだった。
そもそもブロッケン自体、登山では珍しくもなんともない。私はこの山で見かけるのは初めてだが、星の数ほどある登山経験の中で耐性がついてるのも当たり前だろう。
しかし、笑うブロッケンなんて初めて見た。この山に登っていなければ絶対に慣れなんてしなかったはずだ。コージーさんのように取り乱すのが普通の反応だと思う。
そこまで思案して、ゾクリと背中が震えた。
私の根本的思考、感情を塗り替えられている気がしてならないのだ。なによりこんな、たった数十日の間に二度もブロッケン現象を見ること自体おかしいのだ。発生する条件は虹よりも厳しく、そうそうお目にかかれるような物ではない。
そう、それこそまるで、この狂気山脈が作り出したような＿＿
「ぁ！？」
『弘中さん！！』
前を歩く弘中さんが小さく息を漏らしたかと思えば、目の前で足を滑らせた。滑落には良い思い出がない。心臓がこれ以上無いほど激しく動きだし、滑落を止めようと手を伸ばす。
滑りゆく瞬間が、まるでスローモーションのように感じられた。こちらに伸ばされた弘中さんの手をなんとか掴む。滑落が一瞬だけ止まり、弘中さんが手を握り返す。しかし高山病の影響か、力をいれることもままならない私の手から、リボンがほどけるかのようにその手は離れてゆく。
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夜隠(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます！この小説を見つけてくださった事がとても嬉しいです。応援ありがとうございます、更新の励みになります！ (2020年6月21日 7時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 好きです！（突然の告白）何故今まで読んでいなかったのか…と後悔しましたwまぁとにかく好きです！更新頑張ってください！ (2020年6月18日 21時) (レス) id: 1840efb8a6 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - コンソメさん» お返事遅れて申し訳ないです。私も下山諦めましたね…褒めて下さりありがとうございます！ご期待に添えるよう精進して参ります。 (2020年6月11日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
コンソメ(プロフ) - あっ、やばい。下山は諦めたけどもう、うん(語彙力消失)僕が書いてるのとは比べ物にならない素晴らしさですね。こんな良い話を書いてくれてありがとうございます。応援してます！ (2020年6月7日 11時) (レス) id: 1d8435ec80 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 銀さん» お待たせしました……！ここまで来れたのも読んで下さる方々のおかげです。ありがとうございます。銀さんも体調にお気をつけ下さい。 (2020年5月30日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜隠 | 作成日時：2020年5月24日 5時
