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そう、私たちは誰一人として転落することもなく無事にアイスフォールを抜け、8000mまで来たのだ。
当たり前だが登攀はかなり体力を使う。特に一番先に登るクライマーとなれば、人の手が全く入っていない場所を登るので尚更のこと。腕や足、太もも、筋力などはもちろんだが、脆い岩場に足をかけたときに欠かせないバランス感覚や、災害が起こらないか常に気を張っている必要がある。
まさに満身創痍だ。感覚的には「死の壁」と名高いアイガー北壁の方が難しかったように思うが、なにせ垂直登攀を２ピッチ分、連続で進んだのだ。体力的にはこちらのほうが堪えた。
心地よい気だるさに身を任せながら気まぐれに右隣に座る梓さんの肩にもたれかかる。怒られるかと思っていたのだが、梓さんは嫌がる素振りをみせず、むしろ頭を優しく撫でてくれる。猫をあやすように、そっと。
予想外の行動に弾かれたように身を起こした。
「まだそのままで良かったのに」
『……梓さん、からかってますね、私のこと』
「ふふ、先に甘えてきたのはあなたでしょ？」
聖母のように優しく、穏やかな声につられて頷きかけるが、じとりとまとわり付く払々さんの目線に気づき寸前の所で止まる。ドライアイスのように当てられる視線は熱いが、実際の彼の放つ空気は気温よりも低い。
男の嫉妬は醜いと言ったものだが、第一二人は恋仲ではないのでスルーしておこうと思う。
「……まぁ、次も頼むよ、Aちゃん」
『え、皆さんは……？』
「いや、あんな綺麗なお手本みせられると尻込みしてしまいますよ」
『何言ってるんです。登攀はそれぞれ性格出ますし、見てみたいものです』
何を言ってるんだといいたげな皆さんに苦笑が漏れた。
そもそも私にだって体力の限界は存在する。いくらクライミングの類いが好きであろうと体がついてこないこともあるのだ。この先を進むにおいて、ピッチ数が増えれば増えるほど他の人にも代わってもらう可能性も高い。それを頭に入れておいてほしいものだ。私も人間であるので体力は有限であると。
曖昧な笑みに興味を失ったのか、こちらに向けられていた晴さんの瞳が左の方へ動く。一定速度で動いていると思いきや、ある一人の人物でピタリと止まった。三日月のように細まる瞳にピリッとした緊張が背に走る。この二人はなかなか馬が合わないようで、今までに良い思い出が無い。
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夜隠(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます！この小説を見つけてくださった事がとても嬉しいです。応援ありがとうございます、更新の励みになります！ (2020年6月21日 7時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 好きです！（突然の告白）何故今まで読んでいなかったのか…と後悔しましたwまぁとにかく好きです！更新頑張ってください！ (2020年6月18日 21時) (レス) id: 1840efb8a6 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - コンソメさん» お返事遅れて申し訳ないです。私も下山諦めましたね…褒めて下さりありがとうございます！ご期待に添えるよう精進して参ります。 (2020年6月11日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
コンソメ(プロフ) - あっ、やばい。下山は諦めたけどもう、うん(語彙力消失)僕が書いてるのとは比べ物にならない素晴らしさですね。こんな良い話を書いてくれてありがとうございます。応援してます！ (2020年6月7日 11時) (レス) id: 1d8435ec80 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 銀さん» お待たせしました……！ここまで来れたのも読んで下さる方々のおかげです。ありがとうございます。銀さんも体調にお気をつけ下さい。 (2020年5月30日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜隠 | 作成日時：2020年5月24日 5時
