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それでもそれらが着ているウェアの損傷は無く、綺麗に残っていたため二人が誰であるかは判別がついてしまう。
深い真紅と鮮やかな緑に心当たりは、ある。
『トントンさん、シャークん』
……変わり果てた二人だった。じっとりと生暖かい吹かれながら一歩、また一歩と近寄る。二人の真横にしゃがみこめば、顔すら認識できないほど顔面は溶けており、ぽっかりと空いた虚空が見つめ返した。
あぁ、ひどい。瞳すらも見せてくれないのか。
彼らの瞳が好きだった。
トントンさんの血を透かしたような黒みの混じった赤も、シャークんの蛍光色のような彩度の高い緑も。負けず嫌いで無理難題であればあるほど瞳孔を開いて楽しげに細められる瞳が好きだった。堪らなく寂しくて彼らの頬に手を添えれば、あの柔らかく温かい感覚はなく、ただただ固いだけでぬちょ、と溶けた肉の破片が手に粘りつく。
辺りを見回してもあとの二人、リーダーと全美さんの姿はどこにも無かった。ずいぶん開けたこの場で見落とすなんてことはあり得ない。存在するのは中身がぶちまけられた二つのザックだけ。
その中から投げ出された眼鏡とヘッドホンを拾い上げる。深紅の彼がいつもかけてるやつと、蛍光グリーンの彼のお気に入りの物。まだ眼鏡はわかる。わかるのだが、ヘッドホンだけはいつ見ても違和感しかない。こんな秘境にヘッドホンを持ってくる人なんて後にも先にもこの人だけだ。
『お二人とも、ここにいたんですね……』
既に形見と化してしまったそれらを撫でながら呟くも、返事は無い。彼らが生きてれば「なんや、俺らが死ぬわけないやろ」とか「俺らのことなめすぎじゃない？」とか煽られてたはずだ。その言葉が紡がれるはずだった口の中へ両手の親指をそれぞれ差し込む。湿りもしない、反応も無い。……わかってる、死後何週間も経ってることは。
虚しい。辛い。寂しい。痛い。
まだ登り足りないのに。一緒に登るって、エベレストもマッターホルンも一緒に登ろうって約束したじゃないですか。……あなたたちがいなかったら誰がクライマーとビレイヤーをやるんですか。
彼らが
その問いを嘲笑うかのようにぬるい風が髪を拐う。露になった首筋を舌のような湿り気を帯びた風が這ったのが嫌に印象にのこった。
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夜隠(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます！この小説を見つけてくださった事がとても嬉しいです。応援ありがとうございます、更新の励みになります！ (2020年6月21日 7時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 好きです！（突然の告白）何故今まで読んでいなかったのか…と後悔しましたwまぁとにかく好きです！更新頑張ってください！ (2020年6月18日 21時) (レス) id: 1840efb8a6 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - コンソメさん» お返事遅れて申し訳ないです。私も下山諦めましたね…褒めて下さりありがとうございます！ご期待に添えるよう精進して参ります。 (2020年6月11日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
コンソメ(プロフ) - あっ、やばい。下山は諦めたけどもう、うん(語彙力消失)僕が書いてるのとは比べ物にならない素晴らしさですね。こんな良い話を書いてくれてありがとうございます。応援してます！ (2020年6月7日 11時) (レス) id: 1d8435ec80 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 銀さん» お待たせしました……！ここまで来れたのも読んで下さる方々のおかげです。ありがとうございます。銀さんも体調にお気をつけ下さい。 (2020年5月30日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜隠 | 作成日時：2020年5月24日 5時
