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『ありがとうございます、払々さん』
「いいよ、いいよ。もー、Aちゃん着いて来なくて焦ったよ」
本当にあと四、五メートルでガス地帯を抜けるといった所ではぐれたようだ。ものの数秒歩けば立ち止まってる皆さんの元へたどり着いた。私の姿を見るなり、「無事で良かった」「ちゃんとついて来いよ」などと声をかけられる。
ちゃんとついて来い、まさにその通りである。一瞬の気の緩みが死へと誘う魔の手であることは身を持って体験してきているのだ。今回は完全に私のミスでしかない。
自分の意識の低さに恥ずかしくなり思わず顔が下がる。聞いて呆れる、登山家が山になめてかかるなんて。あわあわと「何責めてるんですかコージーさん……！」だの「Aさんを置いてったのは貴方では？」と外野が口を挟むものの、本当にコージーさんは悪くないのだ。
彼は責められるべきではない。そう伝えようと急降下した感情を振り切り、目を上げた先に付いたのは、言い合う三人でも、ルートの思案をしているK2さんでも無い。眉間にしわと汗を浮かべ、唇をつんと尖らせる払々さんの姿だった。
『……大丈夫ですか？ 払々さん』
「なんのこと？」
『かなりの量のガス、吸ってしまったのでしょう？ ごめんなさい、私がはぐれたから……！』
「ゴホッ、ゴホッ……いやぁ、Aちゃんはよく周りを見てるねぇ」
『梓さん呼んできます』
あぁ、やってしまった。
ふらりと近くの岩に手を付き、ずるずるとしゃがみこんだ彼の姿に自責の念にかられる。もし、私が見失っていなければ？ もし、あのまま歩き続けていれば？ 結果論となってしまうが、状況はまた変わっていたはずだ。
地面が凍っていて滑りやすいのなんて気にせず、一目散に駆ける。目的の彼女は私が目の前へ来るとちょうどいいと言わんばかりに、大きなザックの中から雪解け水の入っているのであろうステンレスボトルをこちらに差し出した。
「A、症状は出てないみたいだけど水飲んで。後が怖いわ」
『私はなんともないですので、お気持ちだけで十分です。ありがとうございます。でも、払々さんが症状重くて』
だから、と言う前に彼女の瞳はうずくまる払々さんの姿をとらえた。医者としての本能であるのだろう。応急セットをザックから取りだし、わき目もふらず彼の元へ近寄る。その後を追うように、私もよろよろと近づいた。
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夜隠(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます！この小説を見つけてくださった事がとても嬉しいです。応援ありがとうございます、更新の励みになります！ (2020年6月21日 7時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 好きです！（突然の告白）何故今まで読んでいなかったのか…と後悔しましたwまぁとにかく好きです！更新頑張ってください！ (2020年6月18日 21時) (レス) id: 1840efb8a6 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - コンソメさん» お返事遅れて申し訳ないです。私も下山諦めましたね…褒めて下さりありがとうございます！ご期待に添えるよう精進して参ります。 (2020年6月11日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
コンソメ(プロフ) - あっ、やばい。下山は諦めたけどもう、うん(語彙力消失)僕が書いてるのとは比べ物にならない素晴らしさですね。こんな良い話を書いてくれてありがとうございます。応援してます！ (2020年6月7日 11時) (レス) id: 1d8435ec80 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 銀さん» お待たせしました……！ここまで来れたのも読んで下さる方々のおかげです。ありがとうございます。銀さんも体調にお気をつけ下さい。 (2020年5月30日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜隠 | 作成日時：2020年5月24日 5時
