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どうやら弘中さんは匂いで気づいていたようだが、他の人たちは認識したそれに顔を曇らせる。
感じ取ってしまえば後が辛い。硫黄のような鼻が曲がりそうなほど強烈な匂いでは無いのだが、違和感が酷い。一週間ちょっと、文明の発達した日常生活から離れていたおかげで、淀みなく綺麗で新鮮な空気が当たり前となってしまっていた。だから微々たる量のガスでも酔いそうである。
『彼が言うなら間違いないのでは？ 見た感じそこまで広範囲に広がってるわけでもありませんし……私は行きたいです』
「まぁ、そうだよな。助教が言うなら。行こう」
この場に長居したくなくて急かすような口調になってしまったが、異論は無いようだ。先程までのガヤガヤとした騒々しさはすっかり身を潜め、一同は覚悟を決めたように歩き始めた。
霧よりも濃い白みがかったガスの中で、必死に前にいるコージーさんの黒いザックを追いかける。私は最後尾についてるため、いくらでもルートを外れようが足場を踏み違えようが後続に迷惑をかけることはない。ただ自身が危うくなるだけで。
かなり早足で進んでいるらしく、気を抜いてしまえばザックはすぐに虚空へ紛れてしまう。『待って』と一言いえば良いのだが、なにせここはガスの中。なるべく吸い込みたくない。
何分歩いただろう。たかが数十秒かもしれない。けれどもガスの影響か目が痛いし、呼吸も苦しく感じる。さらにこの薄いベールを何十にも重ねたような視界は今までの現象を思い出させるから嫌いだ。その……蜃気楼とか。
一瞬別のことを考えてしまったからだろう。気がつけば周りに誰も居なかった。コージーさんの影すら見当たらない。まるで箱に閉じ込められたかのように四方八方は白しか映らなかった。
落ち着け、落ち着くんだ。焦れば貴重な情報も見逃してしまう。
激しく波打つ心臓のあたりのウェアを握り締めながら、音に神経を集中させる。
聞こえるのはガスの吹き出す音、風の音、足音。
……右だ。
「こっち、Aちゃん」
力強く手を引かれる。多少よろけながらもその手を握った。間を入れず今一度強く握り返され、救世主はしっかりとした足取りで進んで行く。迷いなど無いかのように運ばれる足取りと広い背中にこれ以上無いほど酷く安心した。
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夜隠(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます！この小説を見つけてくださった事がとても嬉しいです。応援ありがとうございます、更新の励みになります！ (2020年6月21日 7時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 好きです！（突然の告白）何故今まで読んでいなかったのか…と後悔しましたwまぁとにかく好きです！更新頑張ってください！ (2020年6月18日 21時) (レス) id: 1840efb8a6 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - コンソメさん» お返事遅れて申し訳ないです。私も下山諦めましたね…褒めて下さりありがとうございます！ご期待に添えるよう精進して参ります。 (2020年6月11日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
コンソメ(プロフ) - あっ、やばい。下山は諦めたけどもう、うん(語彙力消失)僕が書いてるのとは比べ物にならない素晴らしさですね。こんな良い話を書いてくれてありがとうございます。応援してます！ (2020年6月7日 11時) (レス) id: 1d8435ec80 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 銀さん» お待たせしました……！ここまで来れたのも読んで下さる方々のおかげです。ありがとうございます。銀さんも体調にお気をつけ下さい。 (2020年5月30日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜隠 | 作成日時：2020年5月24日 5時
