漆黒の山脈のはじまり ページ2
高度6000mを超え、ショゴス乗越を越えた頃、山はその姿を大きく変えた。あまりの強風のためか、はたまたその特殊な地質の影響か。全ての雪が吹き飛ばされた漆黒の山脈が姿を表したのだ。
視界の果てまで目もくらむような高峰群が続いていた。ここから先、私たちは無数の頂上を迂回しながら漆黒の山脈の最高峰と推定される場所へたどり着かなければならない。
いわばここからが真の狂気山脈へのアタック開始となるのだ。未知の領域、デスゾーン、そして登攀の待ち構えるこの先はどうなることやら。数日後も笑っていられることを切実に願う。
平地にテントを張るのにも手慣れたものだ。来たばかりの頃は手こずる私に梓さんが苦笑していたのだが、今となっては一人でも組み立てられるようになった。ペグを雪に打ち入れて、テントと紐を繋ぎ固定させれば設置完了。曲げていた腰を伸ばすように大きく伸びをした。
色々あれども思い返せばまだ半分までしか登っていないのだ。
しかし着実に近づいていることも事実である。山頂にも、第一次登山隊と通信の途切れた地点とも。
彼らは、第一次登山隊は間違いなく7000mまでは登っている。きっとその地点まで行くであろう明日、明後日が正念場であることは十分理解しているのだが、どうしても落ち着かない。この標高だ、もし死体と成り果てていても腐敗することはないのだから余計に。もし……もし、凍死や餓死したのであれば、その遺体はさぞ綺麗なことだろう。記憶の中の姿と同じまま、眠るように息を引き取る彼らを目の前にしたとき、私は……。
想像で物事を語るなんて愚者のやることだ。仮説に焦ってはいけないことはわかっている。登山は我慢比べであることを、身をもって知っているからなおさらの話。結局はどんなに信じがたいことだとしても事実として受け入れなければならないのだから。
「8日で7000mに入るのか……なかなか良いペースなんじゃないか？」
『食糧的余裕もありますし、多少の猶予ができましたね』
「滑落やガスでやられてないのも大きいわ。おかげで医療品も温存できてる。余程ルートが良いのね」
小さな焚き火を囲みながら飲む紅茶は普段の数十倍美味しく感じる。熱々のそれを静かに喉に通しながら話す会話も好きだ。これからの戦略でも、生い立ちでも、世間話でも何でもいい。生きてる、登れてる、皆さんがいる。どんなに下らない話だって、周りに人がいることを肌で実感できるのだから。
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夜隠(プロフ) - 匿名さん» コメントありがとうございます！この小説を見つけてくださった事がとても嬉しいです。応援ありがとうございます、更新の励みになります！ (2020年6月21日 7時) (
レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 好きです！（突然の告白）何故今まで読んでいなかったのか…と後悔しましたwまぁとにかく好きです！更新頑張ってください！ (2020年6月18日 21時) (レス) id: 1840efb8a6 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - コンソメさん» お返事遅れて申し訳ないです。私も下山諦めましたね…褒めて下さりありがとうございます！ご期待に添えるよう精進して参ります。 (2020年6月11日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
コンソメ(プロフ) - あっ、やばい。下山は諦めたけどもう、うん(語彙力消失)僕が書いてるのとは比べ物にならない素晴らしさですね。こんな良い話を書いてくれてありがとうございます。応援してます！ (2020年6月7日 11時) (レス) id: 1d8435ec80 (このIDを非表示/違反報告)
夜隠(プロフ) - 銀さん» お待たせしました……！ここまで来れたのも読んで下さる方々のおかげです。ありがとうございます。銀さんも体調にお気をつけ下さい。 (2020年5月30日 4時) (レス) id: 2199585496 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜隠 | 作成日時：2020年5月24日 5時
