・戦い方と救われ方 ページ18
その数刻後、環火は目を覚ました。落ち着く匂いがする。
「…んぁ…あに、うえ」
ろくに呂律も回っていないが、確かに自分を背負って運んでいたのは兄だった。荒れた山道だが、あまり揺れないのは体幹が素晴らしいからか、安心からか。
「む、起きたか。よくやったな、下弦の鬼を一人で仕留めたと聞いた」
普段より静かだなぁと穏やかに思いながら、突如吐き気が襲ってきた。
「……えぇ、兄上、少々下ろしていただけませんか」
「だめだ、折れている。歩いたら悪化する」
「えぇ、わかってます。というかわかっているから頼んだのですが」
環火は不機嫌そうに、早口でそう伝える。足をがっしり安定させるように掴まれていたので降りるに降りられない。
「なぜだ?」
「わかりませんか、骨が折れているんです。気分が悪いので一度吐きたいのです」
多分右腕の骨も折れているだろう、と左腕でぐいぐいと煉獄の背中を押す。煉獄はしばらく悩んだが、少し山道を外れてそっと下ろす。
「大丈夫なのか?」
「まぁ…」
煉獄は心配そうに見るが、環火は気まずい。一度蹴り飛ばして伸ばしておきたいが、あいにくこの兄は丈夫な上に、自分の足が保たない。
環火は諦めて、地面に俯いて口の中に指を突っ込む。いっそ気持ちいいほど吐いているところを兄に見られるという、不愉快この上ない体験をした。
「はぁ、はぁ…」
環火は自分のひょうたんから水を口に含むと、数回ゆすいだ。いくらか不快感はなくなった。
「隠の方は?」
「ここまで来る方法が無かったらしい。俺も崖を伝い降りた」
「あぁ…なるほど」
またその後、煉獄に背負われて山道を歩く。どこに向かっているのか分からないが、環火が口出さない方が良いのは確かである。
「下弦か…環火も柱になれるな!」
「…何仰っているんですか、私はまだ"辛"ですから。それに炎柱は兄上がいます」
「ふはっ、そうか。でも報告はしっかりするようにな」
「あぁ…そういえば」
「まだしばらくかかる。もう一眠りするといい。次に目を覚ましたら安全なところだろう」
「では…そうさせていただきます」
ありがとうございます、ともう一度言い、環火は眠りにつく。幼い頃はよくこうしてもらっていたが兄が鬼殺隊に入ってからは久しぶりだった。それが嬉しくて、少し頬が緩んだ。
終わり←・戦い方と救われ方−4
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作者名:白夜ひすい | 作成日時:2020年11月22日 12時