DANCE！2nd

76ビート ページ30

76.


エリック·ロペス。


数々の世界タイトルを総なめにした、ダンス界の頂点に立つ男。整ったルックスと物腰柔らかな性格も相まって人気を博す。


でも。


公衆の面前で俺の彼女にキスをかますような奴だなんて聞いてない！


貴女｢エリックとは私が5歳だった頃に出会ったの。ほら、私アメリカで育ったから。だから英語も喋れて｣

佐藤｢…へー｣


ここはAのスタジオ。俺がここに来るのは初めてだ。刀ミュの稽古を終えて3人でここに直行した。


茅野さんにどういう意図があったのかは分からないけど、結局今日の稽古はこの人がつけた。


…悔しいけど、すごいの一言。普段受けているAの稽古を、同じ時間で3周こなした感じ。終わる頃にはみんなヘトヘトだった。


さすがAの師匠。悔しいけど。


貴女｢スキンシップが多い人なの、私や咲子の事子供扱いしてるだけだから｣

佐藤｢…｣


壁際に座り込んで不貞腐れる俺の機嫌を直すことを諦めたのだろう、Aは苦笑いして俺の頭を撫でるとアップをするエリックの所に歩いていった。


子供扱いしてるのはどっちだよ。俺のこと年下だと思って。


貴女｢Mr.Eric, Would you instruct my dance after a long absence?(先生、久しぶりに私のダンスを見ていただけませんか？)｣

エリ｢もちろんデス。そのためにここに来たのでショウ？｣


いや、日本語喋れるんかい。密かに突っ込む俺にエリックは微笑みかけた。


エリ｢アナタは？一緒に踊りマスかAのBoyfriendサン？｣

佐藤｢…いや。ここで見てるんで｣

エリ｢OK｣


なんだあの余裕は。腹立つ。


その時、アップを終えたAが静かにスタジオの中心に立った。


空気がすっと鋭さを増した。踊るAと、それを真剣な眼差しで見るエリック。


ああやって、楽しそうに踊るAが大好きだ。


でも。


エリ｢ずいぶん丸くなりマシタね、A｣


1曲踊り終えたAにかけた言葉がそれだった。


エリ｢アナタは日本に染まりすぎマシた。ワビサビの国。いい言葉デス。でも、それはUltimate(究極)。進化も成長も、全て終えた姿｣


Aの肩が、ピクリと上がった。エリックの灰色の瞳が、Aを透かして俺を貫く。


エリ｢何か、大きな変化があったようデスね。それがアナタを止めている｣


Aを止めさせた変化…。


それってもしかして、


エリ｢今のアナタに必要なのは試練かもしれまセンね｣


俺？

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